デュオ・リサイタルへのプログラム・ノート  吉田 文

 グリニーはフランス・バロック時代のオルガニストであり、その時代の鍵盤音楽を代表する作品を遺している。同世代のクープランやクレランボー等に比べると、かなり、生真面目な感じのする作曲家であるが、私は大好きであり、特にこの“讃歌 Veni Creator”の終楽章には一目ぼれしてしまった。
 カトリックの「聖務日課」と呼ばれる朝、午後、晩等の祈りには必ず「讃歌」という、グレゴリオ聖歌の中でも現代の歌に近い形式を持った節唱が、教会暦に合わせたものを選んで歌われる。その中でも有名な五つの讃歌について、グリニーは聖歌隊とオルガンが交互に演奏される様に、曲を書いている。
 一曲目の“Veni Creator en taille 5”は讃歌の旋律全体がペダルのソロによって演奏される。面白いことに次の“フーガ”のテーマは讃歌の二行目から、“デュオ”のそれは三行目から取られている。

 その後すたれて行ったフランスのオルガン音楽を「復興した」と言えるのがセザール・フランクである。“コラール 第2番 ロ短調”はシャコンナの技法を使って作曲されている。

 ジャンヌ・ドメッシューはフランスのモンペリェーに生まれ、早いうちから才能を現し、12歳のときからパリの聖霊教会でオルガニストを務め、作曲やオルガン以外の科目に於いてもありとあらゆるプリミエ・プリを獲得、その後、20歳台前半の時期にはマルセル・デュプレにオルガンを師事しているが、彼がドメッシューを絶賛した記録がいくつか残されている。“テ・デウム”とは元来5世紀に作られたと思われるグレゴリオ聖歌の讃歌で、詞が「神よ(デウム)あなたを(テ)誉め称える」とはじまることから、こう呼ばれるようになった。多くの作曲家、教会音楽家がグレゴリオ聖歌の詞や旋律を使用した作品を創り出したように、ドメッシューも“テ・デウム”や復活祭の聖歌、“Vectimae Paschali Laudes”や“Resurrexi”を曲の中に編み込んでいる。

 厳格な教会音楽とは一味違った、ユーモラスなオルガン音楽をフランセィは作ってくれた。簡素で恭順なシスター、決然たるシスター、瞑想の世界に漂っていそうなシスター、酔っ払っているシスターもいたら面白いな、と私は思った。お喋りなのか、こま鼠みたいにいつも動いているのか、シスター・コンスタンスはどこの修道院にもいそうだし、聖アウグスティノスのマザーマリーはその豊満な体格と大らかな性格が聞こえてきそうだ。

 オルガンとホルンの分野では勿論、オリジナルに、この楽器のために書かれた曲を集めたのだが、唯一ネルダは弦楽合奏からの編曲である。この曲は元々ナトゥアホルン(弁のないホルン)の為に書かれた協奏曲の筈なのだが、独奏声部はトランペットの音域が使用され、演奏は不可能なほど困難らしい。そのため、トランペットで演奏されることが多いが、今回はこの曲の為に作られた一回り小さいホルン、コルノ・ダ・カッチャで演奏される。この「ミニホルン」も演奏は非常に困難であり聴く機会は稀である。
 オルガンとホルンがいつ頃からデュエットをするようになったかは定かでないが、今世紀の初めあたりから、曲が作られるようになってきた。

 スタンリー・ワイナーはロシア系アメリカ人で、ヴァイオリニストとして活躍、後にブリュッセルの音楽院で教鞭をとるようになった。何だか不思議な音楽の言葉を操る人だと思った。ちなみに、私たちの一番最初のきっかけとなったのはこの曲である(トゥルガイが前から弾いてみたかった「とても綺麗な曲」。《デュオへの前書き》を御参照ください)。

 リテイズは、言うまでもなく、ラングレイと並ぶパリの盲目の巨匠であった。厳かなカテドラルの雰囲気とは反対に、非常に明るいラテン系の曲が多く、とてもユニークなオルガニストであった。

 そしてアルプホルン。当初は「アルプホルンとオルガン」というコンサートも面白いかと思っていたが、オリジナル曲は片手で数えられるほどであるに加えて、「スイスの山奥」をイメージする曲が殆どであったため、これだけではプログラムにならず断念。しかし折角芸術的に演奏出来る奏者もいることだし、どうしても弾いてみたかったので「三本の異なったホルンとオルガンのヴァリエーション」を演奏しようということになった。