中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【80】 『緊張と、どう付き合うか 全3回 その2』  2007.10.20

(1)イメージトレーニング
(2)椅子の高さ…大事だが意外に忘れがち
(3)時間を決めて(1)を実行する
(4)環境を変える

 今回は、『自分を緊張させる方法』の第2回目、(3)(4)である。

(3) 時間を決めて(1)を実行する

 通し練習を、長時間色々練習した最後にやってみて、『うまく弾けた』 としてもそのような演奏は本番では出来ないと思うこと。指や体がその曲を弾くのに適した状態になっているし、今まで練習していたわけだから頭の中は活性化していてうまく弾けるのは当然。難しいことは、頭も指も使っていない状態から、ピアノに触れずに実際に演奏できる状態に持っていくことなのである。その意味で、次の方法を薦める。
 (1)のトレーニングを例えば『午後7時に開始する』 というように自分で時間を決める。ここで大事な事は、決めた時刻の最低30分位前からはピアノに触れないようにすることだ。そして決めた時刻の数分前から(1)のイメージ『お客さんが会場に〜』を持ち始め、決めた時刻になったら演奏開始する。これは【本番のとおりの行動をし、気持ちを持つこと】 から想像できると思う。本番は、どこかの会場で演奏するわけで、それには、家を出て何らかの交通手段で会場まで行く、という行動が伴う。当然ピアノに触れていない時間が実際には1時間以上あるはず。弾かない時間を経てから、ある時刻になったら弾く、という訓練だ。
 どのくらい前から、イメージを持ち始めるかは、何度もやってみて自分のスタイルを見つけること。

(4) 環境を変える

 いつも自分が練習している部屋の環境を、出来るだけいろいろ変化させる。

●その1:〈照明〉
 部屋の電気の明るさをいつもと変えてみる。いつもと違う照明に変えるのも良い。例えば部屋の明かりは消し、グランドピアノの場合、譜面台の横のスペースにスタンドを置く。片方からの光になるので鍵盤に黒鍵の影が出る(アップライトピアノの場合は上にスペースがあるから置く場所を色々工夫出来る)。暗譜がしっかり出来ていないと、この状態では非常に弾き辛い。つまり耳で聴く音として覚えているつもりでも、実際には、目で見て指の場所、腕の動きなど、体の感覚で覚えている場合が多いのだ。昼間ならカーテンを少し閉めて暗くしたりすると、雰囲気が変わる。

●その2:〈響き〉
 慣れてしまった響きを変える為にピアノの蓋のあけ方を変えてみる。響きが変わるとテンポが変わる場合もある。

 他にもあると思うが、このように色々工夫して、慣れてしまった環境を、弾く毎に違う環境になるように変えてほしい。 

 これまでの方法で、演奏前に自分を緊張状態にすることが出来、またその状態での演奏をすることになるはず。これを本番1ヶ月前くらいから、週に2度位のペースで続けていくのだ。(1)から(4)までを同時に全部やる事が大変だと思う場合は、毎回どれか違った2つ位を組み合わせて実践してもよい。初めてこの方法を実践すると、思いがけず「ガタガタ」になり、演奏途中で自分を見失うような事にもなるだろう。弾き終わって「あ〜ぁ、今まで練習したことが全く出来なかった。途中で立て直そうとしたけれど、頭が真っ白で……。」という事が必ず起こる。『自分なりに90%くらい仕上がっている』と思っていたときに、この現実を突きつけられたときのショックは大きい。しかし、これでよいのだ。膿は練習のうちに出してしまおう。

 演奏には「自信」も必要だ。
 次回は自信をつける為の1つの方法について。

次回へ続く。(H. N. )

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