村上千佳 ピアノ・リサイタル
Chika Murakami  Piano Recital


千佳
 

ドビュッシー:12の練習曲
ムソルグスキー:展覧会の絵(ヴィクトル・ハルトマンの想い出)

◎名古屋公演◎
2003年5月22日(木)19:00(開場 18:30)
電気文化会館ザ・コンサートホール

【料金】全自由席 3500円/学生 2500円
【予約、お問合わせ】ルンデ TEL:052−203−4188

◎東京公演◎
2003年5月28日(水)19:00(開場 18:30)
サントリーホール(小)

【料金】全自由席 4000円
【予約、お問合わせ】ミュージック:プラント TEL:03−3466−2258
村上千佳 プロフィール
 5才よりピアノを始め、山口普子、藤村佳美、矢部民、安川加寿子の各氏に師事。
 1987年パリ国立高等音楽院ピアノ科を審査員全員一致の一等賞を得て卒業。その後ブーローニュ・ビヤンクール国立音楽院室内楽科及び、伴奏科、パリ国立高等音楽院ピアノ科第3課程研究科を修了。'89年第5回マルサラ国際ピアノコンクール入選。'91年マリア・カナルス国際コンクールにて名誉ディプロマ賞を受賞。ジャック・ルヴィエ、パスカル・ドウヴァイヨン、テオドール・パラスキヴェスコ、ヴァディム・サハロフ、レフ・ナウモフ、ジェルメヌ・ドゥヴェーズの各氏に師事。
 パリ国立高等音楽院在学中、メシアン「世の終わりの為の四重奏」を演奏、作曲者自身より称賛を受けたのを始めとして、在学中はアヴィニョン・プロヴァンス・オーケストラ、ニューチェンバー・オーケストラと共演の他、ポルトガル・シントラ音楽祭、ドイツ・シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭、南仏バスク地方の国際ピアノ・フェスティバルに出演するなど、ヨーロッパ各地で数多くの演奏活動を行っている。'92年帰国後もソロ、伴奏、室内楽奏者として、引き続き活発な演奏活動を行っており、NHK−FMにも数回に亙り出演している。また、ヤマハピアノフェスティバルに審査員として招かれるなど、中部・東海地域でも活動。現在、国立音楽大学非常勤講師として後進の指導にも積極的に取り組んでいる。
前回のリサイタル評より
“主情型の演奏”―――表現することへののびやかで豪快な感覚は、貴重なものであろう。
(「ショパン」誌評)

“美酒に酔う” ―――甘美な音空間、柔軟で大きく深い構成を持つ波のうねり…(中略)…ピアニストの全身から発散されるエネルギーは、会場の聴衆を飲み込んで、陶酔の境地へ導いた。
(「ムジカノーヴァ」誌評)
コンサートに寄せて     村上千佳
 留学を終え帰国して、はや10年が過ぎ、自主企画のリサイタルとしても、いつのまにか7年目を迎えます。私事ながら感慨深く思うのと同時に、このように演奏を続けてこられたのも、皆様のさまざまなお力添えあってのことと感謝の念を新たにしております。
 さて、今回は、畏れ多くもフランスとロシアの生んだ偉大な作曲家達の大曲を2曲並べ、表現の極限にまで挑戦します。
 ドビュッシーは、単にフランス音楽の代表として19世紀〜20世紀の橋渡しをしただけではなく、さらにその作品群により、現代音楽への扉を開きました。“12の練習曲”は彼の最晩年の作品ですが、ピアノの高度な技巧を越えたところで、微妙な陰影に富む響きや音彩、自由奔放な歩みや限りないファンタジーが魅力です。
 そして、そのドビュッシーに影響を与えたひとりとされるのが、“のみの歌”や“禿山の一夜”で有名な、ロシア国民学派のムソルグスキー。
 冒頭のテーマを知らない人を探すほうがむずかしいほどのポピュラーな名曲“展覧会の絵”は、彼の、ロシアの国と民衆に対する真摯な気持ち、深い愛情に満ち溢れています。
 一見、相反するような二人ですが、純粋で無邪気そして本能的なところなど共通点が多く、とくに、無限に広がる空間と人間味あふれるドラマは壮大です。当夜はそうした魅力を存分に楽しんでいただけるようにと、日夜努力し準備をすすめております。
ルンデのスタッフとの一問一答
−−今回のプログラミングについての「思い」をお聞かせ下さい。

 今回のプログラムは、モスクワ音楽院のレフ・ナウモフ教授、元リヨン音楽院教授、ジェルメーヌ・ドゥヴェース女史のお二人への感謝の気持ちの表れでもあります。
(以前にも既にお話しさせて頂いたことではありますが、ピアノに関して長い間抱えていたもやもやを吹っ切る解決の糸口になったのが、このお二人との出会いでした。
 ナウモフ先生は私がそれまで理想像としていた音楽の姿を現実のものとして目の前に提示して下さり、漠然としたイメージを明確に、揺るぎ無いものに根付かせて下さいました。そして、私の演奏面での方向性、目標が定まり、それを実現するための奏法・テクニックについて最大の力になって下さったのがドゥヴェース女史です。もちろん、私が得たものなどほんの微々たるものに過ぎませんが、精神的にも肉体的にも以前に比べ嘘のように楽になったのです。)

 まずドビュッシー。練習曲は、コンサートでは個々で演奏されることはあっても、前奏曲集のように全曲演奏されることはまれです。しかし、練習曲とは言えパロディあり、海に浮かんだバルカローレ、宇宙空間を髣髴とさせるような神秘、とろけるような甘いアルペジオ、イタズラ好きの子悪魔の遊びなど、カーニヴァルのようにいろんなキャラが登場して、素晴らしい曲集と思います。楽しくて美しく、繊細であり大らかでもあり、演奏されないのはもったいなさすぎです。
 また、指のメカニズムから音の響き・色の探求に力を注がれたこの曲集を偏りなく勉強することで、ドゥヴェース先生から学んだことの整理・確認と穴埋めが出来るのではないか、とも考えました。
 また、ドビュッシーは、彼の音楽を演奏するピアニストは、ピアノをハンマーのないものとして考えるべきだ…または、バラの花をそおっとつまむようなタッチで、と言ったそうですが、そんな詩的な優しさを大切にしたいと思っています。
 そして、如何にこの練習曲がいい曲とは言え、やはり緊張感の連続で、ショパンの小犬のワルツを楽しむのとは次元が違いますから、後半では出来るだけポピュラーなものをと思い選んだのが「展覧会の絵」です。また、帰国後のリサイタルでは必ずロシアものを取り上げてきているので、今回もと思っていました。
 ドビュッシーはムソルグスキーの歌曲を偶然聴いて感銘をうけ、さらに、歌劇ボリス・ゴドゥノフのスコアを取り出しては友人と毎日のように弾きまくったほど熱中していたそうですが、ムソルグスキーの全音音階、自然的短音階の使用や大胆な和声は、ドビュッシーにも大きな影響を与えています。また、ムソルグスキーの純粋にロシア的たるべき音楽を創造するという国民学派としての理念、伝統からの独立、そして実験的な試みを好んだこともドビュッシーを刺激した様です。
 私は彼の作品から、突き詰められた本源性、生身の人間の原始的なほどの叫び…素直で真実から目をそむけない、でもちょっとグロテスクなほど本性を剥き出しにしている、そんな精神を感じてそれがすごく好きです。
 ナウモフ先生は私に昔「お前には、我々の虐げられた苦しみはなかなか分からないだろう」とおっしゃいました。当然私はロシア映画を思い出したり想像するくらいしか出来ませんが、この展覧会の絵では、単に絵≠セけではなく、ドフトエフスキーのカラマーゾフとか白痴の一部分などの情景や空気を感じ取って頂けるような演奏をしたいと思っています。

−−前回電気文化会館でのリサイタル(2000年5月)から3年ですね。この間の活動の中で、特に印象深かったと思うことはどんなものがありましたか?

 ちょうど前回のリサイタル後になる3年前から、国立音大の作曲の先生でいらした鵜崎庚一氏のピアノ作品を毎年一曲づつ改訂初演する機会に恵まれました。いわゆる現代音楽といわれて皆が想像するようなものとは違い、調性や旋律のある音楽です。音の美しい人に演奏してもらいたいとの事で私に演奏を依頼して下さり、大変光栄でした。
 それから、ひょんなコトで知り合ったチェリストの方と、年2回のペースでサロンコンサートをするようになりました。彼の意欲的なレパートリー拡大に、私もお付き合いさせて頂いているといった感じですが、私自身、昔勉強した多くのチェロ曲の見直しも出来たり、最近は私自身が奏法だの技術にとらわれてやってきているので、彼のように気持ちで押し通す姿に触れ、何と言っても"音楽はまず心"という事を改めて思い出します。

−−現在は東京を拠点に活動しながら、定期的にこうして名古屋でも演奏活動を続けられています。千佳さんにとっての「名古屋の存在」はどのようなものですか?

 私の日本デビューリサイタルは、名古屋のスタジオ・ルンデ。食べ物は美味しいし、文化的遺産は多いし街がコンパクトで動きやすい点などは、パリに似ていて、好きです。また、数々の素晴らしい出会いもあり、いささか古い言い回しかもしれませんが、それらのご縁を大切にしたいと思っております。
 それに、味噌煮込みうどんとドラゴンズをこよなく愛する私にとって(笑)、名古屋は切れない存在です。

−−今回のリサイタルを終えたあとの今後の計画や予定などはありますか?

 昔、人から言われたのですが「楽器の奏法を直したり新たに身につけられるのは40歳まで」なのだそうで(40を過ぎるとさすがに体が堅くなり、柔軟性がなくなるのだそう)、残された数年で、今までに培ったものをさらに確かな自分のものにしたいと思っています。レパートリーとしては、まだもうしばらく仏・近現代の作品をみてゆきたいと思います。個人的には特にフォーレを。
 また、アカデミックな機関である大学に勤める身として、もう少し、バッハ、ベートーヴェンについて知識を深め考えを固めたいとも思っています。

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