高橋悠治 on Piano バッハからユージまで

TAKAHAYASHI YUJI  on Piano
yuji

◎7月 6日(金)19:00(開場 18:30)

W. A. モーツァルト:ロンド イ短調 KV.511
J. S. バッハ:トッカータ ホ短調 BWV.914
エリック・サティ:ジムノペディ 第1・3番、グノシェンヌ 第2・3・5番
ジョン・ケージ:One(1985)
スラマット・シュークル:YU-TAHA(1997)
ナ・ヒョーシン:Rain Study(1989)
高橋悠治:まわれまわれ糸車(1978)、Piano(2000)


スタジオ・ルンデ
(名古屋市中区丸の内 2-16.-7)
【参加会費】一般 4,200、ペア 7,350、学生 2,100
     一部座席予約可(160席中約50席、学生除く)
※コーヒー・ブレイク(お茶のサービス)あり
【予約、お問合わせ】スタジオ・ルンデ TEL:052−203−4188
 《プログラム・ノート》  高橋悠治
 現在「クラシック」を演奏するとき、18世紀音楽史はドイツ音楽中心に再編成されたものであり、現在の演奏様式は、均質化された音律や拍、速度と力への信仰、楽譜や作曲家の権威付けによって産業化されていることを忘れることはできない。これらの様式は、20世紀社会の権力構造から生まれ、いまコンサート市場を支配する音楽産業によって押しつけられている。
 音楽家や聴く人たちの自発性をとりもどすためには、これらの古典化された音楽を別なやりかたで蘇らせることもできるかもしれない。今日演奏するピアノは、ウェルクマイスターIIIという非平均律調律法で調律されている。バッハの「平均律」をはじめ、ショパンにいたるまでのピアノ音楽は、均等ではない音程による調の性格のちがいをもっていた。このような調律法は、近代ヨーロッパの調性音楽以外にも適用することができる。モーツァルト(1756-1791)の「ロンド」も、バッハ(1685-1750)の「トッカータ」も、演奏するたのしみ、あるいは顔の見える聴き手のために書かれている。コンサートはまだ存在していなかった。演奏するたのしみとは、あらかじめできあがった内容を伝えたり解釈することではなく、作品はその場でくりひろげられる音のふしぎを味わうための手続きにすぎない。
 サティ(1866-1925)の場合も、コンサートのためというよりは、サロンで友人たちにきかせるため、あるいは当時の芸術家仲間が集まるカフェで演奏するための音楽と言える。そこには音へのつつましいおどろきがある。「ジムノペディ(はだしの踊り)」や「グノシエンヌ(グノーシス派の女)」のようなタイトルには、古代や東方への憧れがある。「グノシエンヌ」には、サティがパリ万国博で知った東欧音楽にヒントを得た増2度音程を含む音列が使われている。「グノシエンヌ5番」はかなり後に発見された遺作であり、タイトルは出版社の都合だけで、根拠がない。
 プログラムの後半は、同時代の音楽になる。
 ジョン・ケージ(1912-1992)の「One」(1987)は、使用される楽器の数をタイトルとした一連のNumberPiecesの第1作にあたる。指定された時間枠のなかで、両手は独立に一連の和音を弾く。演奏のたびに左右の和音のちがう出会いかたがある。
 スラマット・アブドゥル・シュークルは、ヨーロッパにまなんだインドネシアの作曲家の最前衛と考えられている。「YU-TAHA」(1997)は、メロディではなく、固有の色彩をもつ単音と和音のモザイクでできている。タイトルはユージ・タカハシという名から思いついた意味のないシラブル。最後に、それとわからないようにして、サクラサクラのフシが引用されている。
 韓国出身でサンフランシスコに住むヒョーシン・ナの「Rain Study」(1999)は、韓国民謡「サニョンブル(山念仏)」にもとづいている。「沈む太陽は明日またのぼる、過ぎ去った人生は二度と還ってこない」。飛び散る装飾音にいろどられた、ただ一本の線の多層化は、溌墨や飛白といった書の手法を思わせる。
 高橋悠治「まわれまわれ糸車」(1978)は、朝鮮半島の平安道と全羅道につたわる「糸車(ムッレ)タリョン」の異なる版にもとづくムルレヤ・ピンピン・トララ(糸車くるくるまわれ)というはやしことばに続いて、糸紡ぎをする娘たちの哀しい思いがうたわれる。このピアノ曲は全羅道版のリズム、ゆっくりした12拍子のチュンモリ・チャンダンを基調に、自由リズムの変奏と即興によって綴られている。
 高橋悠治「ピアノ」(2000)は、楽器名をタイトルとするシリーズの1曲。楽譜は、以前に作曲されたさまざまな曲の断片を5部分にわけてランダムにならべたもの。演奏者は、これらにもとづき、その変奏や即興をまじえて演奏する。
 ルンデ開館の年、「日本のピアノ音楽史」と銘打って一柳慧と来演して以来、様々なジャンルで――ピアノ、チェンバロ、シンセサイザー、フリージャズ、邦楽 etc.――すでに14回の例会出演を数えます。
 ピアニストとしては、バッハの「フーガの技法」「ゴールドベルク」の名演がとりわけ忘れられません。一昨年はチェンバロで御喜美江と共演しましたが、ピアノを弾くのは阪神淡路大震災年の1995年以来なのです。
 今回は、バッハからユージの最近作までを、古典調律(ヴェルクマイスター第三)されたピアノで弾こうというもの。
 また、カットはお気に入りのイラスト。目下これがユージの「公式ポートレート」です。これ以外の写真などの使用は「一切まかりならぬ」というキツイお達しがマネージャーに出ているとか……。

高橋悠治 ルンデの会例会来演記録
1981年11月 『日本のピアノ音楽史』(piano)【共演】一柳 慧(pf)
1982年10月 『ふだん着のコンサート』(piano)【共演】古澤 巖(vn)、村井祐児(cl)
1983年11月 『季節はずれの「いちめん菜の花」コンサート』(piano, synsethizer)
 【共演】三宅榛名(piano)
1984年10月 『DIALOGUE with Improvisation』(piano, synsethizer)
 【共演】豊住芳三郎(drums)
1985年 4月 『GAMES AMONG FRIENDS』(piano)《CONTEMPORARY SERIES 6》
 【共演】ジョン・ゾーン(sax)、豊住芳三郎(drums)
1987年 1月 『夜の時間』(piano, synsethizer)
1987年 9月 『高橋悠治 ピアノ・ソロ・コンサート』(piano)
1988年 7月 『フーガの技法』(piano)
1989年 2月 『ゴールドベルク変奏曲』(piano)
1989年 5月 『クリスティーン・ウィトルシー ソプラノ・リサイタル』(piano)
1991年12月 『三宅榛名・高橋悠治 ピアノ・デュオ』
1995年 2月 『空飛ぶ鳥の跡は知られない』(piano) ※阪神淡路大震災により延期
1995年 4月 『空飛ぶ鳥の跡は知られない』(piano)
1999年 3月 『御喜美江 ファンタスティック・アコーディオン14』(cembalo)
1999年 3月 『糸』(一絃琴)【共演】高田和子(三絃)、石川 高(笙)、
   田中悠美子(太棹)、西 陽子(筝)、神田佳子(打物)

Top of this Page   Back   Top of Pippo-Jp