○普段着で世界一流の演奏が聴ける 【J. I. 】
 この9年間、様々な音楽をルンデで聴かせていただきました。好き嫌いや相性、こちらの素養の問題等もありますので、正直??と感じる曲もいくつかありました。ただ、聴いてがっかりした演奏、音楽的に破綻した演奏に遭遇した事はなく、その打率の高さには驚異的なものがありました。これもひとえに鈴木さんの見識・審美眼によるものだと思います。
 また、ルンデの特徴として、「普段着で世界一流の演奏が聴ける」というのがありますが、アットホームな雰囲気作りには、スタッフ各位の寄与する所も大きかったと思います。心地よい雰囲気作りに努めて下さったスタッフの皆さまにも、改めてお礼申し上げます。
 スタッフの方々は、今後ルンデでの新進演奏家の紹介、電気文化会館でのマネージメントなどにあたられると伺っていますが、今後ますますのご活躍をお祈りしております。

――1997年に初めてルンデに伺ってから丸9年が経ちました。ルンデの歴史25年の内、3分の1程度しか経験していない訳ですが、私の音楽体験の大半はルンデとともにありました。
 1997年のあの日、ルンデにお邪魔していなければ、私の音楽体験は今とは全く違ったものになっていたでしょうし、楽器を弾いていることもなかったと思います……。
 ルンデの会の閉会にあたり、過去のプログラムや会報を読み直してみました。これまでに感じたことなどを思い出しながら書いていたら、かなりの長文になってしまいましたが、アンケートのまとめということで、多少なりとも参考になれば幸いです。

◎1997年:
 1例会、あしなが推薦コンサート2回に参加
◆4月26日の「永田真希ヴァイオリン・リサイタル」で初めてルンデに……。永田さんがどんなヴァイオリニストか、ルンデがどんな会場かも知らなかったのに、何故か「ぴあ中部版」に掲載されていた記事が目にとまる。初めて目と鼻の先で聴いたバッハの無伴奏ソナタNo.1に感動! このコンサートがきかけでルンデに通うようになり、無謀にも30の手習いでヴァイオリンまで初めてしまう。この時に抱いた「バッハの無伴奏を自分でも弾いてみたい」という望みが、エベレスト級の野望だとは、この時は知る由もない。
◆12月の和波孝禧さんの「ヴァイオリンを語る〜XVI」で初めて例会に参加。土屋さんとのデュオでプロコフィエフのソナタ集だった。

◎1998年:
 あしなが推薦コンサート1回に参加
◆この年は「安彦千恵ヴァイオリン・リサイタル」に参加しただけだった。この時、初めてバッハの「シャコンヌ」を生で聴く。

◎1999年:
 7例会、あしなが推薦コンサート2回、
 Xコンサート1回に参加
◆4月例会の「グローヴン&崎元ファンタスティック・デュオ」でハーモニカとは思えない音量や音色の幅にびっくり。学校で習う楽器というハーモニカに対する先入観が音を立てて崩れる。
◆5月の「オルガンの国のアリス」で初めてオルガンを体験。吉田文さんは、書かれた文章を読んでいて、利発で魅力的な人だなと感心していたのだが、このコンサートで音楽的にも素晴らしい才能の持ち主だと実感させられる。
◆この年の例会では、「小山実稚恵 バッハ・シリーズ第1回」とバルトーク弦楽四重奏団(第2日)のボロディン/第2番とベートーヴェン/ラズモスキー No.3 が印象に残っている。

◎2000年:
 11例会、ルンデ推薦コンサート1回、
 あしなが推薦コンサート2回に参加
◆この年のコンサートで特筆すべきは、モラヴィア弦楽四重奏団と藤井裕子さんの共演だったと思う。モラヴィア弦楽四重奏団は、有名な団体という訳でもなく、プログラムもチェコのマイナーな曲が並んでいたせいか、客席に空席が目立ったのは残念だったが、その演奏内容は間違いなく超一流であった。特に2日目のノヴァ−ク/ピアノ五重奏曲で、あまりの美しさに感極まった藤井さんが涙しながら弾いていた姿が、強く印象に残っている。この時に感じた緊迫感、奏者と会場の一体感こそが、生演奏の醍醐味というべきものなのだろうが、残念ながらルンデ以外で体験したことは今だ嘗てない。流行や商業主義に阿らない見識のある主催者、意欲的な奏者、好奇心の強い積極的な聴衆が揃ったときに、「聴衆参加型」のコンサートが完成するのだということを実感した。
◆この他には、ニーナ・コトワさんのピカソ組曲なども印象に残っている。

◎2001年:10例会に参加
◆「戸田弥生 バッハ無伴奏全曲連続演奏会」が印象に残っている。それまでにも何回かバッハの無伴奏全曲を聴いたことはあったが、その中でも非常に密度の濃い演奏だったという点で特筆に価すると思う。パルティータ No.2 の「シャコンヌ」冒頭で崩れかけて少々びっくりしたが、その後の集中力に一流奏者の底力を感じさせられた。
◆「楚々とした」という表現がぴったりのメジューエワさんの、外見とは正反対のパワーヒッターぶりにも驚かされた。メトネルを聴くのはこれが初めてだったが、こんなに魅力的な作品を書く作曲家が、あまり知られていないなんて世界は広いなと感じた。メトネルの作品を意欲的に紹介しているメジューエワさんの姿勢にも共感するものがあった。
 この他、ルンデでは珍しい声楽(ヘンシェル:冬の旅)も好演だった。

◎2002年:
 14例会、あしなが推薦コンサート2回、
 Xコンサート1回に参加
◆4月の「戸田弥生ヴァイオリン・リサイタル」が素晴らしかった。戸田さんの実力は前回のバッハ全曲で分かっていたが、pfとのデュオでも素晴らしい演奏を聴かせてくれた。また、共演したエル=バシャさんのピアノ(特に自作曲)も魅力的だった。
◆アルテミス・カルテットの登場も強い印象に残っている。それまでベートーヴェンの弦楽四重奏曲とは相性が悪く何となく好きになれなかったのだが、彼らの演奏で初めてその魅力に触れることができた様に感じた。クルタークの様な現代曲だけではなく、ベートーヴェンを説得力をもって聴かせることの出来る音楽性に感心させられた。
◆この他にも、児玉桃さんのメシアン/みどり児イエスに注ぐ20の眼差し等が記憶に残っている。

◎2003年:
 22例会、あしなが推薦コンサート1回参加
◆小山さんの「スクリャービンとラフマニノフ」、堀米さんと児玉桃さんの「モーツァルト」、児玉麻里さんの「ベートーベン」という魅力的なシリーズが始まったのがこの年。このようなシリーズものを単発でなく聴けるのが、ルンデならではの楽しみの一つ。
◆菊池洋子さん、横坂源さん、ブリスさんという、若い才能に接することが出来たのも幸せだった。特に菊池さんの弾くモーツァルトの美しさが印象に残っている。
◆この他、バルトーク弦楽四重奏団と若林さんの共演で実現した、ドホナーニの五重奏曲も素晴らしい演奏だった。

◎2004年:25例会に参加
◆この年は弦楽好きにはたまらない1年だった。特に圧倒されたのが、セルゲイ・ハチャトリアンとヴァディム・グルーズマンの2人。この他、エリック・シューマンは近々名古屋公演があるようなので、その後の成長を楽しみにしている。グルーズマンの技巧・スタミナ・集中力を目の当たりにして、あらためて世界にはとてつもないヴァイオリニストがいるもんだと感嘆させられた。
◆この頃から金澤さんのリサイタルに興味を持つようになる。ピアニストや音大生にとって、非常に勉強になる内容だと思うのだが、毎回10人程度の参加者だったのは残念。

◎2005年:19例会に参加
◆金澤さんのリサイタルは、なるべく都合をつけて聴きに行くようにする。毎回新しい発見があって非常に面白い。
◆マンハッタン弦楽四重奏団のショスタコービッチ・マラソンコンサートは、所用のため通しでの参加を断念! 今後、このような企画が名古屋で再び行われることはあるのだろうか?
◆久保田さんのバッハ無伴奏全曲も印象的。

◎2006年:21例会に参加
◆久保田さんのレーガー/無伴奏ソナタは、ミュンヘン・コンクールで弾いた思い入れのある曲とのことだったが、その言葉に違わぬ好演だった。
◆野原さん、久保田さん、メジューエワさんといった気になるアーチストを並べて見て気づいたのは、「外見は楚々しながら、内面の強さ・厳しい音楽性が感じられる」といったタイプの奏者に弱いらしいということ。
◆戸田さんの演奏でイザイ全曲を聴くことが出来たのも幸せだった。最近では比較的良く弾かれるようになったとはいえ、一晩で全曲を聴く機会など今後あるのだろうか……。
◆バルトーク弦楽四重奏団は、これまでにも数回聴いていたが、十八番のバルトークを全曲通して聴くのは、もちろん今回が初めて。どの曲も気合十分で、かつ熟成されたアンサンブルに魅了されたが、中でも3番〜5番が素晴らしかった。

 昨年の「ルンデの会終結」の発表以降、アンコールの前などにルンデへの想いを語るアーチストが沢山いらっしゃいました。主催者やホールについての評価が高いのは当然ですが、聴衆の質についても高い評価をいただけたのは、観客の一人としても無上の歓びです。

 ルンデの会は閉会してしまいますが、ルンデに確かに存在した主催者・アーチスト・聴衆の幸せな三角関係が、名古屋の他の会場でも結ばれ、更に広がっていくことを期待して……

 最後に、様々な音楽を経験する機会を与えてくださった主催者の鈴木さん、スタッフ各位、スタジオルンデに心より感謝します。