落語【三十石】から、謎かけの部分
※【三十石】は、東京では故・三遊亭円生、大阪弁でこれも今は亡き三遊亭百生などが得意としていた、情緒たっぷりの噺。

 江戸の昔、京(京都)から大坂(大阪)へ淀川を下る夜船が、便利な交通手段として栄えた。今ならさしずめ長距離夜行バスがそれに当たるかも。その船中のつれづれを慰めるため、風流な人たちの間で『謎かけ』――「何々とかけて、何と解く。心は」――などが盛ん。

とある船中。「さあさあ皆さん、謎かけでもして遊ぼやおまへんか。まず言い出しっぺで、あたしから……」。
  『イロハの「イの字」とかけて』、『へえへえ、あげまひょ』。
  『それを貰うて、「茶の湯の釜」と解く』、『ほうほう、心は?』
  『その心は、「炉(ロ)の上」にある』

  『面白おすな。ほならわてはその「ロの字」とかけて』、『あげまひょ』
  『それを貰うて、「ウワクチビル」と解く』、『その心は?』
  『「歯ァの上」にある』、『アハハハ……』

「ええ、ひとつわたくしも、お仲間に入れていただけますでしょうか」「ささ、どうぞどうぞ、どなたはんでも」
  『それではわたくしは、その「ハの字」とかけて』、『ほな、あげまひょ』
  『ハの字を貰って「船頭さんの弁当」と解く』、『心は?』
  『ハイ。その心は「荷の上」にある』

  『おもろい、おもろい。今度はわてが「ニの字」とかけて』、『あげましょう』
  『「舟でする月見」と解く』、『ハテ、心は?』
  『「帆の上」にある』、『ああ、風流やなァ』

とわいわいやっていると、乗り合わせていた江戸っ子も黙っていられない。
「ヨーシ。今度は俺が……」、「よしなよ、お前ぇには出来ねぇよ」、「いいってことよ、すっこんでろ」
  『おいらがひとつ、「ホの字」を貰おうじゃねぇか』、
  『えらい威勢のええ人が出て来はったな。よろし、あげまひょ』
  『そいつを貰って「フンドシの結びっ玉」と解く』、『その心は?』
  『「屁の上」にある』……