落語【こんにゃく問答】概要
※今は亡き三遊亭円生や春風亭柳橋なども得意としていた噺。

 江戸で食い詰めた「熊」が、田舎住まいをしている「六兵衛兄ィ」のところへ転げ込む。悪い遊びで髪の毛が抜けてしまった「熊」をみて、今は蒟蒻屋を営んでいる「兄ィ」は、無住になっている村はずれの破れ寺の住職にはめ込む。
 一日、二人が庫裡で酒盛りをしているところに、訪なう声。熊公が出てみると旅僧「拙僧は諸国行脚の雲水。ご当寺門前を通りましたところ“不許葷酒入山門”とありますれば禅家と拝察。修行のため一問答願わしゅう存じます」。驚いた俄住職の熊公が、一所懸命居留守で追い払おうとするが、旅僧はテコでも動かぬ構え。困り果て六兵衛に相談すると、知恵者の彼は「無言の行」でやればよかろう、と和尚になりすまし応じることにする。

 さて、本堂で対面し、旅僧はいろいろ問うが、和尚勿論無言。
 旅僧は、さてはと察し、やおら両の手の指で小さな輪を作り、胸の前からズイと突き出す。
 和尚も何を思ったか、手にしていた払子代わりのハタキを襟に刺すと、これも両手指で大きな輪を作って押し戻す。
 旅僧、ハハッと恐れ入り、今度は両手を広げて突き出す。
 対する和尚は、片手を開いて応える。
 旅僧、再度低頭し、必死の形相で指を3本差し出す。
 和尚、すかさず人差し指で右目の下目蓋を引きながらベロをだす。
 旅僧、「到底拙僧の及ぶところにあらず。両三年修行を致しまして……」と蒼惶として退散する。

 驚いた熊公、逃げ帰ろうとする旅僧をつかまえ、一体どうなっていると訊く。旅僧答えて、
 「さては禅家荒行の内、『無言の行』中と拝察し、されば無言には無言にて問わんと、
  『大和尚、ご胸中は?』とお尋ね致しましたるところ
  『大海の如し』とのお答え、まことに以て恐れ入ったる次第。
 続いて、
  『十方世界は?』とお聞き致しましたるところ、
  『五戒で保つ』とのお答え。何ともはや……。及ばずながら今一問と存じ、
  『三尊の弥陀は?』との問いには、たちどころに
  『目の下にあり』と……。
 まことにもって愚僧など遠く及び申しませぬ。今一度修行して出直して参ります。御前体、なにとぞよしなに……』と走り去る。

 「何だ、心配させやがったけど、兄ィ、てえしたもんじゃねぇか」て、と熊公が意気揚々本堂に引き返してくると、偽和尚「やい、あいつを逃がしちまったのか」とカンカンになって怒っている。またまたびっくりした熊公が、どうしたと聞くと、六兵衛和尚曰く、
 「あいつは諸国行脚の雲水なんてとんでもねぇ。どっかの豆腐屋かなんかの回し者に違ぇねぇ。何を訊いても知らん顔をしていてやったら、俺の顔を穴のあくほど眺めてやがって、ははあこれは蒟蒻屋の六兵衛だなと気づきやがったとみえて、
  『おめぇんところのコンニャクはこれっぽっちだろう』 というから、
  『うんにゃ、こんなにでっけぇ』 と言ってやった。そしたら
  『10丁でいくらだ?」 と値を訊いてやがる。少し高えと思ったが
  『五百(文)だ』 とふっかけてやったら、しみったれた野郎じゃねぇか
  『三百にしろ』 と値切ったから
  『アカンベエ』 をした。」