中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集
【241】 『正式名』 2017. 8. 14

ヨーロッパ人の名前には、父姓(ふしょう)がある事が多い。例えば「フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー」の真ん中にある “ミハイロヴィチ” が、それだ。東ヨーロッパなどではその父姓が有ることで、正式名とされる。

ある学者の方が研究の為にロシアを訪れた。ある町の図書館に文献を探しに入館しようとして、入口で名前を書くと、
「ちゃんと、父姓の欄を空白にせず、正式名を書きなさい、でないと、入館を許可できませんよ」
と、言われたそうだ。彼は困って
「父姓はないから書けません、私は日本人なのでこれが正式名なんです」
と、パスポートまで見せて粘った。

「書いて」「書けない」の少しの押し問答の末、図書館係員は突然ペンを手に取り、空欄になっていた父姓に「イヴァノヴィチ」と書き足して
「ま、これでいいや、ハイどうぞ〜!」
と快く通してくれたそうだ。

だから、その図書館の “正式な” 入館記録には今でも「あつし・イヴァノヴィチ・さかにわ」という、実在しない?人物が入館したことになっているらしい (^_^)
( Y. N. )

ページの先頭へ