中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【200】 『音は純粋だった……』  2014. 2. 15

先日、芸文アートライブラリーに楽譜を返しに行き、ふと思いつきサムラゴウチと検索してみたら、意外にもまだ、「ヒロシマ」(現代典礼)の音源にヒットしました。聞けるのは今だけか?と思い初めて聴いてみました。

渦中の作曲家Nさんがニュースに出た時、私は跳び上がる程驚きました。というのは、とても親しい知人が昔、中学生だった彼のピアノをレッスンしていたからです。私はNさんとは直接面識がありませんが「彼は当時既にピアノが卓越していて、思慮深い内気な青年だった」と常々聞いて名前を知っていたからです。

今回の事件で知人は、週刊誌の長い告白を読んで号泣してしまったと言っていました。

「ヒロシマ」なる作品、は、ビクトリア╳マーラー╳ストラビンスキを長大スペクタクルにして対位法を巧みに組み込み、大衆にもわかりやすく丁寧にまとめた Requiem、と感じました。
美しい音でした。
与えられた細かい設計図があったとは言え、Nさんの純粋さが伝わる音作りで、美しくて…涙が出てしまいました。

18年間もの長い間偽ってきたS氏本人の過剰な虚飾の演出、話題性を面白がるメディアと大衆、その裏に横たわる巨大な市場、、、その対極で黙々とあんな音を紡いでいたのかと思い、聴きながらいろいろな思いが込み上げました。

救いは、厳しい処分を発表した勤務先の音大で、学生さんなどから、Nさんへの処分を軽くして欲しいという何千人もの署名が集まっているらしいとの事…。有能な作曲家が再び心静かに作曲ができるよう、なんとかよい環境に戻っていけばいいなぁ、と願っています。
( Y. N. )