中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【186】 『さくらのバケツ』  2013. 4. 7

今年の桜は例年より随分早く咲き始めたので、長い期間、目を楽しませてくれた。昨日の強風で満開の桜も大分散ってしまったようだが……

さて今日は休日だったので、いつもより遅く朝のウォーキングに出掛けた。
あるマンションの駐車場の脇を通った時の事である。幼稚園くらいの女の子が、車の後で何かガサガサやっているのを見つけた。ちょうどそこは散った桜の吹きだまりとなっている。見ると、可愛らしいピンク色のシャベルで桜の花びらを集めては、小さめのプラスチックのバケツに入れていた。時折ふく風で、バケツに入る前にシャベルから舞い上がってしまう桜もあった。家内は女の子と目が合ったらしく
「綺麗だね!」
と遠くから声をかけた。するとその女の子はにっこり微笑んだと思ったら、急に立ち上がってバケツを持ってこちらに小走りでやってきた。そして無言でバケツの中一杯の花びらを見せてくれた。
「凄い!沢山集めたねぇ」
と、僕が言うと
うん
と言ってにこにこしながら首を縦に振った。すると、さっきの車の陰からもう一人別の子が出てきた。なんと二人で一緒に花びらを集めていたのだ。その子は、空き瓶に花びらを一杯にして手に持っていた。
バケツを見せてくれた女の子は立ち去り、再び桜を集めだした。暫くして、もう一人の子から桜の瓶を受け取ると、中に詰まっている桜をバケツに移し換えシャベルでグルグルかき混ぜ出した。何をしてるんだろう?
すると、声が聞こえてきた。

もうすぐシチュー出来ますからね!

あっ、そうだったのか、二人は〔ままごと〕をしていたんだ!

なんとも微笑ましい春の風景でした。
( H. N. )

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