中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【172】 『長調は何が長いか? 後編』  2012.3.25

今回は、Essay No.171の後編で、どちらも少し前に《Dialogue》に書きこみがあった質問への回答です。質問とは

①長調と短調とは雰囲気が違うのは判るが、長調か短調かどうやって区別できるのか?
②国により調を表す言葉は違うが、日本では何故、長い(短い)調べなのか?
③同じ曲を長調から短調にする事が出来るのだろうか?また、その逆は?

というものです。①の回答は前回しましたので、今回は②と③についてお答えします。
②について
長い、短いは何処からくるのか? それはなんとも言えませんが、日本語の意味を考えると、「長短」は、時間、距離等が長い場合に使われますね。前回の①の説明に照らし合わせてみると、長い、短いという言葉が当てはまる所があります。
①の説明から長調では、「第1音・ド」と「第3音・ミ」の音程は、「全音+全音」であり、短調では「全音+半音」である、と言えます。全音は半音二つ分ですから、これを言い換えると、前者は半音四つ分、後者は半音三つ分と言えます。変な例で恐縮ですが、半音の距離を仮に一センチとすると、長調では「第1音・ド」から「第3音・ミ」までは四センチ、短調では三センチ、となり、「第1音」からの距離が「短調の方が短い」という事になります。これが長短の名前の由来ではないでしょうか?
もし長短でなく、日本で調の名前を決めていた頃、もし「遠近」という言葉が選ばれていたなら、「ハ長調」は「ハ遠調」、「ハ短調」は「ハ近調」に、また「広い、狭い」という言葉が選ばれていたとしたら「ト長調」は「ト広調」、「ト短調」は「ト狭調」等と名付けられたかもしれません!

③について
とても面白い事に気が付きますね! Dialogueには「ドレミの始まりの開始音が違うだけ、という気もする。」とありましたが、それは「半分」だけ正解です。短調をどうやって作るか、により2種類の短調が生まれます。「半分」だけ正解、というのはそのうちの1種類が正解、という意味です。
一つは、ハ長調の「第1音」と、短調の「第1音」を同じにする場合で、ここからハ短調が生まれます。作り方はいたって簡単! 音階に含まれる音程を、①の説明のように変化させれば出来上がりです。
応用編 短調から長調にするにはその逆を操作をすれば良いのです。)
二つ目はハ長調の「第1音」から『半音三つ分下がった音』を「第1音」とする短調を作る方法です。音名で言えば「ラ」になります。ここから「イ短調」が生まれるのです。この、『半音三つ下げる、というのを、半音五つ下げたり、半音二つ上げたり、という勝手な事は出来ないのです。西洋音楽の昔からの決まりなのです。書き込みされた、「開始音が違うだけ」という考えは、この二つ目の短調に該当する事になり、この分が正解だったのです。
応用編 この場合、短調から長調にするには『半音三つ分上がった音』を「第1音」として、長調の規則通りに音を積み重ねて行けば良いのです。ここまで来ると、音楽を専門に学んでいる高校生レヴェルの音楽理論になります。)

なお、今回のエッセイには「音」を入れておきました。同じ曲が短調にも長調にもなる、という例です。③の説明の二つ目の短調はお分かりのようなので、一つ目の例の「音」が聞けるようになっています。
下欄のそれぞれの「」ボタンをクリックすると、上段では童謡から『でんでんむし』の長調(元々の調性)と『でんでんむし』の短調バージョン、そして下段ではチャイコフスキーのバレエ音楽から『白鳥の湖』の短調(元々の調性)と『白鳥の湖』の長調のバージョンを聞く事が出来ます。(それぞれを最初から聴き直すときは「」をクリックしてください)
●比較のために長短調を同時スタートするボタン(右端)も付けてみました。ステレオ・スピーカー・システムなら左チャンネルで短調、右チャンネルで長調が再生されます。
♪『でんでんむし』の長調
♪『でんでんむし』の短調
♪『でんでんむし』長短調並行
♪『白鳥の湖』の短調
♪『白鳥の湖』の長調
♪『白鳥の湖』長短調並行

調についての質問へのお答えは以上です。お分かり頂けたでしょうか?
( H. N. )

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