中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【171】 『長調は何が長いか? 前編』  2012. 3. 12

さて、今回は《Dialogue》No.233への回答です。
ご質問の内容をまとめると―
①長調と短調、雰囲気が違うのは判るが、長調か短調かどうやって区別できるのか?
②国により調を表す言葉は違うが、日本では何故、長い(短い)調べなのか?
③同じ曲を長調から短調にする事が出来るのだろうか?また、その逆は?

という、正しく説明するのに大変難しい内容でした。

お答えの前に、以下の事を予備知識として知っておいて下さい。
どんな調でも長短問わず「調固有の7つの音から構成されている音階」があります。原則としてその音階構成音の音を使って曲が作られているのです。それ以外の音を使う時は「♯、♭」などの臨時記号を使い、一瞬だけその調の音を使わない事が出来ます。
音階の最初の音を「第1音」と言い、鍵盤上のどの音でも(黒鍵、白鍵にかかわらず)「第1音」になることが出来ます。もし「第1音」が「ハの音」から始まる音階構成音で出来ているのならハ長調、または、ハ短調が出来ます。他の調、例えばニ長調や変ロ長調などは絶対に出来ないのです。
ところで「ハの音」という表現は日本式表記で、同じ音をドイツ語では「C ツェー」、英語式なら「C スィー」、イタリア式で「Do ド」と言います。音の名前を表すには、普通はこのイタリア式表記が使われていますね。もしイタリア式表記の音名で、前述した「ハ長調」を言えば、「ド長調」 という事になりますが決してこんな言い方はしません。全てを日本語に直し、「ハ長調」となります。

以下順番にお答えします。

①について
調に関するEssay No.169の本文中に【……第1音とか第3音というものが存在せず、何調という分類もありません……】というくだりがありますが、実はそこにヒントがあるのです。適当に「第3音」という言葉を使った訳ではないのです。しかし、そこでは難しい説明は避けました。因に、音階を構成する最初の音が「第1音」なら、3番目の音は「第3音」と呼ばれます。 
ここから、少し専門的な内容になります。長調、短調に関する大事な要素「音程」についてです。難しい所です。覚悟して下さい。

長調や短調の違いは、全て前述した音階構成音の各隣り合った音と音の幅(これを音程と言います)で決まるのです。音程には二種類あり、一つは「半音」、二つ目は半音が二つ繋がった「全音」です。『半音+半音=全音』という訳です。鍵盤上なら黒鍵、白鍵を含んだ隣り合った音は、全て半音になっています。手前に並んでいる白鍵ばかりを順に選ぶと、全音と半音が入り乱れた状態になります。なぜなら場所によっては奥に黒鍵があり、それを飛ばしてしまっているからです。言い方を変えれば、キーボードの奥の方を順に選べばその音程は全て半音です。途中に黒鍵が無い所もありますが、そこは白鍵同士が半音になっています。
さて、長調も短調も、「第1音」と「第2音」、イタリア式音名で言えば「ド」と「レ」の間は、半音が二つの「全音」と呼ばれる音程が使われています。ところが「第2音・レ」と「第3音・ミ」の間は、長調は「全音」ですが、短調は「半音」なのです。あと一箇所、「第5音・ソ」と「第6音・ラ」の間も、長調は全音、短調の場合は半音となります。これらが長調と短調の違いなのです。たったこの二箇所の音程の違いで雰囲気の異なる長調と短調が出来上がるのです。なお「第7音・シ」と「第8音」(一巡するので第1音と同じ音になる)の間の音程は「半音」と決まっています。
お分かり頂けましたでしょうか……?
以上のように、まず規則に従って作られた音階があり、その構成音を使って曲が出来ているのです。例えば、「ホ音」を「第1音」として長調の音階を作り、その構成音を使って曲を作れば、それは「ホ長調の曲」となります。「ト音」を「第1音」として短調の音階を作り、その構成音を使って曲を作れば、それは「ト短調の曲」となります。
ここまでは①の回答です、理解して頂けましたか?
……続く
( H, N. )

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