中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【164】 『クロノス・クァルテット演奏会から』  2011. 9. 27

今月は、あの2001.9.11.からちょうど10年経った節目だった。テレビでも、沢山の追悼番組や検証番組が放送された。そんな中、11日深夜にオンエアされた「クロノス・クァルテット演奏会から」を偶然耳にした。現代曲を得意とするアメリカの実力派弦楽四重奏団である。聴いた作品は、スティーヴ・ライヒの最新作の世界初演だった。(録音は今年3月)

題名はズバリ「WTC 9/11」 4人の奏者は片方の耳に同時進行の音声等を貰う為のヘッドフォンを付けて演奏していた。ワールドトレードセンター(WTC)にテロの飛行機が突っ込み、破壊、爆発、火災、崩壊、粉塵にまみれながら逃げ惑う人々の恐怖。クァルテットの研ぎ澄まされた音と静かな語りと少しの効果音を重ねて、リアルタイムで体感するような作品だった。ライヒの作品は素晴しく、クロノスのメンバーはこの作品の言わんとする事を冷酷なまでに忠実に表現していて、思わず釘付けになってしまった。画面を通してもなお、緊張感から鳥肌が立つような作品だった。

この作品の次に、もう1曲演奏されたのは同じくライヒの社会性の強い作品「ディファレント・トレインズ」だった。こちらは20年以上前の作品で、少し長くて3部構成。
1. アメリカ―第二次世界大戦前
2. ヨーロッパ―第二次世界大戦中
3. 第二次世界大戦後
大義名分を掲げて戦争に突き進む人間がいかに愚かかということを、3つの間違った列車に乗ってしまった乗客として表現した作品だった。人間の声と弦楽四重奏の演奏に、1930年代の頃録音した汽車の音や、サイレンやベルが重ねられていた。シュッシュッシュッシュッ……と弦楽器で奏でる、間違った方向に走り続ける汽車の刻み音には、ほとんど胸が苦しくなりそうだった。

どちらの作品も、人間の心に問題を突きつけるような強烈な曲で、聴いていて戦慄が走った。
(Y. N.)

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