中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【163】 『塀の上のカンダタ』  2011. 9. 21

昨日は台風の影響で大雨。仕事が終わり校舎から出ると一面水浸し。つま先歩きで校門を出て交差点まで行くと横断歩道が完全に冠水。目の前を車が通過する度に足下まで波が来る。ちょうど海岸の波打ち際のようで、渡る事は不可能。しかたなくあたりを右往左往するうちに水深の浅い場所を探し当て、やっとの思いで渡る事が出来た。
しかし暫く歩くと今度は目の前の歩道が冠水でそれ以上先へ行けない。僕の前を歩いていた人は皆そこでUターンして戻っていった。せっかくの思いでここまで来れたのに、もう一度水没してない歩道を探すのは面倒だ。
ふと、歩道の脇に、高さ1メートル位の塀が目に留まった。〈よし!ここに上ろう〉さっそくよじ登りその上を歩いた。ちょうど、平均台の選手のように!
ただ、塀に沿って植栽してあるからそれが邪魔して傘がさせず、しかたなく傘を閉じそれで枝をかき分けながら、且つ、バランスを取りながら歩いた。
数10メートル行っただろうか、水深が浅くなって、敷き詰めてある歩道の赤いレンガが見える所まで来て飛び降りた。後ろを振り返ると同じように何人かのビジネスマンが同じようにしながら付いて来ていた。思わず芥川龍之介の「カンダタ」を思い出してしまった。
飛び降りた塀に表札が出ていた。「名古屋拘置所」と。拘置所の塀の上を一列になって歩く様はいったいどう見えたのだろか。後から想像すると、歩いていた場所が場所だけにおかしくて笑えてきた。
(H. N.)

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