中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【150】 『古本屋の珍客 その1』  2011.2.24

古本屋に行った。もう読んで不要になった本を数冊買い取ってもらうためである。上手く行けばその代金でまた何か面白そうな本があったら買ってみよう、とも考えていた。
さて、一冊くらい買えそうな金額になったので、何か(読みたい本は)無いかと店内の棚にぎっしりと並べられた本を見ていた。
突然、お尻を叩かれた。「何?」と思って振り返ると、大きなベージュのゴールデンレトリーバー!
口には何故か薄汚れたピンク色の雑巾を銜えている。そして大きな尻尾を勢いよく左右に振りながら、〈ゆっさゆっさ〉と後ろを通り抜けて行ったところだった。実に嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら…。
どうもその尻尾に叩かれたようだ。
「客が連れてきた犬だろうか? でも犬は店内に入れたかな?」
犬は狭い通路を端まで行くと,くるりと向きを変え、またこちらに向かって歩いてきた。他の客もみな同じように尻尾で叩かれて驚いている。しかし誰もその犬を制止させようとはしないし怒ってもいない。皆、気にしない振りをしながらお目当ての本を探している。
そのうちに店員がやって来た、と思ったらその犬に話しかけた。
「此処は駄目って言ったろ? さぁ行くよ」
そう言って犬の首輪を掴んで動かそうとした。
(…つづく)
(Hide & Yuko)

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