中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【135】 『蝉の抜け殻』  2010. 7. 22

仕事帰りに、セントラルパークを歩いた。もちろん「名古屋・栄」の。NewYorkではありません。歩いたというより歩道があまりにも暑かったので、涼を求めて木陰に入ろうとセントラルパークの樹木の下に逃げ込んだ、というのが正解かもしれない。
「ミーンミーンミーンミーン……」
梅雨明けと同時にもう蝉の合唱が始まっていた。ふと見ると幹に蝉の抜け殻。そこから視線を下げると……あったあった、すぐそばの地面には幼虫が出てきたとみられる直径2センチくらいの穴が開いていた。今度はそのまま左に目をやると、そこには歩道と花壇を分けている縁石があったのだが、この石の垂直面にも《抜け殻》がくっ付いている。地面からは数センチ離れているだけ。よくこんなところで脱皮したな、と感心した。
そのまま下を向きながら歩いていると、別の木の根元に着いた。その木には、丁度目の高さのところに、直径20cm程の大きさの木の札が、紐のようなもので幹に巻いて付けてあった。その札には木の名前が書かれていた。なんて書いてあったかはその時のあまりの暑さのため覚えていない。
それより驚いたことには、その丸い木の札に二つも《抜け殻》がくっ付いていたのだ。石の垂直な面といい、表面の滑らかな木の札といい、普通あまり考えられない場所にも付くものなんだなぁ、と驚いた。
数メートルおきに大きな木があるので、他の木はどうだろう、と探してみた。今度は少し見上げた幹に一つくっ付いていた。上を見たときに木の葉の間から太陽が「ギラッ!」とこちらを向くので一瞬目が眩み、「ふらっ」とした。

久しぶりに一度にたくさんの《蝉の抜け殻》を見た。持っていた携帯で写真を撮ろうとしたが、低い場所のは、写真を撮るのに下を向くので汗が目に入ってきて撮影どころではなかった。丁度いい高さのと、見上げた所のものは、あまりの暑さで撮ることに集中できず、手がふらふらして、不可能だった。

――そんなわけで写真はありません。
(H. N.)

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