中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【134】 『ノラとカメ その2』  2010. 6. 26

つまり……
《ノラはカメに全く気付かなかった》
カメは時々じっと動かない時があるから充分考えられる。

ブロックを飛び越え敷地に入ったノラは、大きな庭石と思って何の気無しにカメの脇を歩いて通過したか、石と勘違いしてカメの甲羅を飛び越えた、または、チョンと甲羅に飛び乗ってから着地して歩き続けた‥に違いなかった。その後、カメはおもむろに動き出したのだ(ノラに気付いたかどうかはこの際問題ではない)。ノラは、不意に自分の後ろで大きなカメが動いているのに気付き、慌てて庭まで逃げて来た、と言うわけだ。

さて【ニャフラック】のような事をしていたノラは、そのカメが方向を変えて庭の向こうの方に移動し始めたのを見て、〈スッ〉と体を翻して今来た通路に入り上手く逃げた。一方のカメはノラの素早い行動にやっと気付いたようで、
(何かあった?)
と言わんばかりに長い首を延ばしてゆっくりと後ろを振り返った。が、まぶたをパチパチさせただけで、そのまま縁の下に潜りこみ、動かなくなった。

あ〜ぁ何と平和な日だこと…… 周りには初夏の暖かい陽射しが溢れていた。(終わり)

(H. N.)

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