中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【132】 『マルグリス先生』  2010. 6. 4

母校の大学で、世界的ピアニストであるヴィタリー・マルグリス先生をニューヨークからお招きするプロジェクトがあった。残念ながらリサイタルには行かれなかったが、レクチャーに何度か参加することができた。マルグリス先生は1928年ウクライナ生まれ、第一線のピアニストでありピアノ教育者である。
レッスンを受けるのは優秀な学生ばかりだったが、ひとたび隣のピアノで先生がパラパラッと弾かれる音やフレーズのな〜んと美しいこと・・・・まるで魔法のような音がする。楽譜上の記号である「音符」が「楽音」に変わり、更に美しい生き物のように輝き始める瞬間に、思わずため息が出てしまった。

「最後に、質問があればどうぞ」という事で何人かの人から質問があった。その中で院生らしき男性が「僕はテンポの設定が苦手です。特に人前で演奏する本番の場合に、走ったりせずに自分が思っていた通りのテンポで弾くには、どんな練習がいいですか?」と聞いていた。
マルグリス先生の答えは、「メトロノームを上手に使ってよく練習します。そして自分の演奏を録音します。そして楽譜を見ながら冷静かつ客観的に録音を聴いて分析し、どこのどういう時にテンポが狂っているのか、自分の癖を見極めます。次に弾く時に、狂ってしまう部分にさしかかったらそれを戻すよう気をつけて弾く練習をします。それを100回でも200回でもやるのです。私も常にそうして練習を積んできました。」
実に明快!当たり前すぎる方法でした。学問に王道なし、ですね。。。
(Y. N.)

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