中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【123】 『カラフルな杖』     2009.11.10

「杖」と言えば、街中での歩行を補助するものから、登山用のものまで色々ある。その材質も、昔ながらの自然の木から作られる持ち手の曲がった一本杖のほか、最近では軽量で丈夫なカーボン製の軽量ステッキや、折り畳み可能なものまで色々なタイプが出てきた。色やデザインも随分明るいものが増えた。僕が子供のころに比べ、杖を持っている人を多く見かけるようになったのも、単に高齢者が増えたからだけではなく、持つことにそれほど抵抗のないデザインが増えてきているからだろう。

仕事帰りに歩いていたら、前の方から一人のお年寄りの女性が歩いて来た。手には杖を持っている。その杖は持つ部分が濃いグリーンで先に向かってグラデーションがかかり先端は白。よく見かける派手な感じのではなく、あまり見かけない落ち着いた自然の色合いだったので僕の目にすぐに留った。ただ不思議な事に、歩く時にそれを使っている様子はないのだ。

   (きっと、今買ったばかりでまだ使いたくないのだろう)

僕はそう思った。手で大事そうに杖を握り、肘を殆ど直角に曲げ、先端が地面に着かない様にして歩いている。

こちらも歩いているのでだんだんお互いが近づいてきた。あまり杖をじろじろ見ては失礼だと思い、視線をそらした。そしてすれ違いざまに気になっていた杖を「チラッ」と見た。

その女性の手にあったもの…

 …… 長ネギ!   … だった ………

(H. N. )

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