中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【121】 『久々の全力疾走』     2009.9.26

東京に行った。用事を済ませた後で大学時代の友人に会うために渋谷に移動。彼は学生時代に毎年一緒にスキーに行った仲間の一人であり、現在はチェンバロ奏者として、東京を中心に全国を飛び回っている。6月には名古屋でも演奏会を開いた。一緒に昼食を取りながら今の音楽界の様々なことを話した。

さて、帰りの新幹線は指定席で17時10分発。友人と別れた後、まだ1時間以上時間があったので渋谷のデパートを見て回る事にした。ところが夢中になっているうちに時間を忘れてしまっていた。ふと気がつくとなんと16時45分。絶対に間に合わない。せっかくの指定席なのに残念、指定時間より後の自由席に乗るしかないと思った。
レジを済ませて渋谷駅に向かう途中、ある考えが浮かんだ。うまくいくかどうか?その考えとは?……

東京駅発の新幹線は品川駅にも停車する。僕がJRで東京まで行く間(必ず品川を通る)に、乗るはずの新幹線は東京駅を発車してしまう。そのうえ品川から東京までのどこかで僕の乗ったJRとすれ違うことになる。それならば、途中の品川で降りて、本来乗るはずの新幹線を待ち伏せして品川駅で乗車する、どうだろう?

渋谷駅のホームで、かかる時間を調べた。品川駅まで12分、東京駅まで24分。

渋谷駅を発車したのは17時00分丁度。そこから僕の頭の中で松本清張の『点と線』のような計算が始まった。のんびりはしていられない。品川に着くまでの12分間に結論を出さねば!

第1案、一応このまま東京駅まで行く。指定の列車には乗れないのは確実なので、仕方なくそこで後続の列車の自由席に並ぶか?

第2案、品川に着くのは計算上は17時12分。そこで下車し、全速力で走って新幹線ホームに行き、本来の列車の指定席に品川から乗り込む。東京を17時10発の新幹線は品川まで5分はかかるはず。乗り換えに3分必要としても17時15分発車と考えれば間に合う……はず。

この二つの案だけなのだが、ぼくを悩ませたのは、第2案で間に合わなかった場合だ。乗り換えにどのくらいの時間が必要なのかは全く分からない。その上、駅の構内が大勢で混みあっていたら? もし乗り遅れた場合、品川駅で自由席に並ぶことになる。どうせ自由席で並ぶのなら断然東京駅で並んだほうが座れる確率は高い。〈う〜ん?〉

品川に着いた。17時13分〈降りようっ!〉 ドアが開いた。通勤客で混み合っていた構内を全速力で走った。新幹線への乗り換えの自動改札、切符を入れてから出るまでの時間がやけに長く感じた。ホームに着いたのは17時15分。ホームの発車列車案内と切符を見比べ、自分の乗る列車は17時17分発だということを確認

「ふ〜っ、やれやれ」

肩で息をしているうちにホームに列車が〈ス−ッ〉と滑り込んで来た。

「ルルルッ、ルルルッ、ルルルッ」

車内販売で買った抹茶アイスは格別に美味しかった。
(H. N. )

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