中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【117】 『進む勇気より、引き返す勇気を』     2009.8.1

北海道大雪山で登山客が遭難した。同行していたガイドの判断に過ちは無かっただろうか?
僕も数年前、夏山登山をしていた時期がある。始めた頃は軽いトレッキングだった。そして何度か行くうちに、日帰り登山へ、そして山小屋利用の縦走へとだんだん難易度が増していった。しかし所詮素人、登山についての装備や服装等の知識が全く無かったから、登山を始めようと思った時に地元で開催された登山講習会に参加した。講師の先生方はヒマラヤ登山の経験者などのプロ集団。さすがに実際に体験した人達だから話に含蓄がある。高度が200メートル上がるにつれて気温は1度低くなる、とか、吸収即乾素材にはどんなものがあるか(最近は普通に見かけるようになった)、などの他、天候の急変による夏山の怖さなども学んだ。講習会最終日は全員で実際に登山をした。下山途中に大雨になり足が取られて大変だったが、いい体験をした。
そこで学んだ一番大事な事、それはいざというときの判断の基準で、「時間」でも「達成した時の満足感」でもない。幾つかの選択肢の中から「必ず生きて帰るための手段をとる」ということだった。「何時までに目的地に着かなければいけない」とか「頂上まであと少し、急激に視界が悪くなってきたが、ここで引き返してはこれまでの苦労が水の泡になるからそのまま先へ進もう」等と考えることはよくある。人は続けてきた行動を(たとえそれが少しくらい危険だと分かっていても)そのまま続けることには何の抵抗も感じない。しかし、それまでの苦労が無駄になることを理解したうえで、あえてそこから先の計画を見直すことには大変な勇気がいる。山に入る場合、いざという時には計画を変更する位の強い勇気を持ってほしいと思う。ツアーに同伴するガイドには、参加者の大事な命を預かっているという大事な事を、改めて肝に銘じてもらいたい。家族にとってはどんな土産よりも無事に戻ってくれることが最高の土産なのだから。
(H. N. )

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