中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【81】 『緊張と、どう付き合うか 全3回 最終回』  2007.10.30

(1)イメージトレーニング
(2)椅子の高さ…大事だが意外に忘れがち
(3)時間を決めて(1)を実行する
(4)環境を変える

 さて、前回までで緊張した中での練習方法を述べたが、本番では、やはり「自信」も必要だ。今回は、それに関することである。

(5) 自信をつける

 前回のエッセイの最後に書いた、『緊張状態での演奏を、本番1ヶ月位前から定期的に続けていく』 ことを思い出してほしい。そして、『仕上がっている』 と思っていたのに、現実は中々そうはいかず、ショックを受けることもある、という事も書いた。  さて、その続きだが、ショックを受けたその時でもやってほしい事がある。それは、毎回この緊張した状態での演奏結果を100点満点で自己採点してほしいのだ。何月何日が××点、とつけてもよいし、第1回目××点、というようにつけてもよい。  この点数は、毎回少しずつ上昇していく、と言いたい所だが実はそうではない。たとえば下のグラフを見てほしい。横が第何回、縦は自分の点を表している。

essay_81.jpg

 見てほしいのは、最高点でも各点の平均点でもない。赤丸の点の第3回の50点、第6回の55点、第10回の50点である。これらは前後に比べると低い点である。しかしこれら低い点の平均点は必ず上がっていく。言い換えれば何度もやっているうちに、例えば、「自分はどんなに悪くても75点は取れる。」となり、更に続けていけば、「最低でも85点はOK。」となってくる。この小さな自信が大きいのだ。本番で怖いのは、『自分が失敗するとどこまで落ちていくのかが分からない』からで、『うまくいかなくても85点はいく。』という自信があれば、それほど怖くはならない。
 第7回を見ると、自己採点で95点となっている。間違っても「自分は95点が出せる、本番もそれくらい出るといいな」と思ってはダメ。もし出せるならそれ以後毎回95点になるはず。そんな夢のようなことを考えても無駄。第6回に悪い点になったから、その後で必死で練習したはず。その結果が95点という点をもたらしただけ。
 ただ、ひとつ言える事は、
 「うまくいくと、95点の演奏になる【可能性】がある」 ということだ。 

これまでのことを、色々試してみると次のことが、分かるようになると思う。

 ●「あがっている」暇はない。

 「良い緊張」の自分がきちんと出来れば、そこからおのずと集中力が生まれ、集中すると自然に音をよく聴くようになる。そして慣れてくると、演奏終了後に【あがっている】状態の自分がそこに存在しなかった、ということに気付くはず。
 つまり、こうだ。

 集中しているときは、【あがっている】なんて暇など無い

という事なのだ。

 さて、これで本番に向けて緊張した状態での練習は終りだ。あとは、本番も、(1)イメージトレーニングでやったように自分で「良い緊張」を作って演奏するのだ。大事な事は、その中で決して気負うことなく「平常心」を保つ事。「良い緊張」状態なくして「平常心」は生まれない。その「平常心」とは、当たり前だが「いつもと同じ気持ちで演奏する」という事で、「ミスの無いように弾こう」とか「格好よく弾こう」などと思わない事だ。
 また試験やコンクール等で時々ある事だが、自分の前の演奏者が自分と同じ曲を弾いていてそのテンポが自分より速かった場合、不安になっても「いつもより速く弾こう」 なんて思わないことだ。テンポというのものは、音楽上の他の要素と結びついていて、自分のテンポで自分の演奏全体のバランスが取れているもの。それに急に変化を加えるということは、今までやってきたすべてがバラバラになり、空中分解を起こす。(なぜか、自分より遅い人がいる場合、自分も遅く弾こうと思う人はいない!)その結果、あがってしまってテンポが速くなってコントロールを失う事と、全く同じことが起こる。折角「よい緊張」を作ったのにもったいない。

 あとは、「あれだけ苦しい練習を積んできたのだから、出来ないわけが無い!」と、【自分を信じる】のみだ。

 これを読んで下さっている方の健闘を祈ります。

終わり。(H. N. )

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