中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【76】 『楽語の話』  2007.9.11

 今年の夏は記録的な猛暑でした。。。
 名古屋も全国1位(ウレシクナイ!)になった日もありました。北欧に出掛けていた友人は、気温15℃の滞在都市から約40℃の名古屋に帰国した途端、頭痛と吐き気に襲われ数日間起きられなかったそうです。きっと・・・血液が沸騰したのでしょう。
 9月も半ばになり、やっとほっとする温度です。皆さんは、無事に乗り切られましたか?

 今日は楽語(音楽用語)のお話。
 「Adagio」という題名の、とてもゆっくりした曲を練習していた時、曲の始めに
pp appassionato(ピアニッシモ・アパッショナート)と書いてありました。直訳すれば「とても弱く、情熱的に」 です。appassionato は、たいてい激しい曲や速いか強い部分に使われることが多かったので、ここはどんな風に弾くんだろう・・?と思いました。

 こんな時、楽語辞典でなく伊和辞典がお勧めです。appassionato は「情熱的な」 の他に「熱烈な、大好きな、夢中になって」 などの意味もあります。類語 appassionare(アパッシオナーレ)を見ると「熱中する、感動する」と出ています。つまり、ピアニッシモでアダージオであっても、その静けさと緩やかさに夢中になる、ピアニッシモの雰囲気に感動して、と考えると、少し分かる気がします。

 今練習しているある曲では、1段目のテンポが、Poco Moderato(ポコ・モデラート)で、3段目で stringendo、4段目で Allegretto とあります。ポコ・モデラートをそのまま「少し中庸に」 と訳すと何だか良く分かりません。moderato は「無茶をしない、節度のある、穏健な」、類語 moderare モデラーレ は「控えめにする、自制する」 とあります。先ほどのポコ・モデラートは、やや節度を持って、動きたい気持ちを少し抑えて程よく・・・と考えて弾くと、とてもぴったり来ます。

 またある曲では、一つの楽章の accelerando の数小節後に stringendo(ストゥリンジェンド)が現れます。どちらもだんだん速くなるのですが、類語の名詞 acceleratore(アッチェレラトーレ)は英語では accelerator(アクセルレイター)「アクセル」を指し、つまり、だんだんアクセルを踏み込んで自発的にスピードを上げてゆく感じです。
 一方ストゥリンジェンドの類語 stringere(ストゥリンジェーレ)は英語では press(プレス)「押す」に相当します。だから、背中からプレッシャーをかけられて差し迫り、やむを得ず前へ急ぐ感じ・・・なるほどニュアンスが異なりますね。

 意味が分かればすぐ弾ける訳ではありませんが、『言葉の意味を考えながらよく練習する・・・』を反芻していく過程は、楽譜を読んでいく時の楽しみの1つでもあります。

(Y. N. )

ページの先頭へ