中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【60】 『矢代秋雄 ピアノ・ソナタ』   2006.12.15

 今年の5月、リサイタルで取り上げた矢代秋雄(1929〜1976)のピアノ・ソナタ、きょうは、その楽譜を紹介したいと思います。左から出版の古い順に3冊。

矢代楽譜

 一番古い薄緑の楽譜は、私の師であるO先生からお借りしたもの。O先生は東京芸大の学生でいらした頃、大学の学園祭でこのソナタを弾かれたそうで、その当時まだ健在で教鞭をとっておられた矢代先生ご本人にいくつかのアドヴァイスを頂いたそうです。矢代先生自筆の鉛筆の書き込みも随所に見られ、また後の楽譜では校正して削除されている部分には、「トル」等の言葉も見つけることが出来ます。大変貴重な、そして興味深い譜面です。私もこの楽譜を見て弾く時、背筋がピンと伸びる‥‥感じがします。

 中央の黒い楽譜は、この数年以内に私が買ったらしい(?)もの。今回この楽譜で譜読みをしました。(買ったらしい…と言うのは、自分で買ったことをすっかり忘れ、持ってないと思って、再度同じ楽譜を注文してしまったから。よくやる失敗です(*_*;)

 グレーの楽譜は、黒い楽譜の存在を忘れて注文(エッセイ7参照)した時に、「残念ながら既に絶版になっております。しかし注文生産で、今から刷ってもらえますからお待ちになりますか?」と言われて3週間後に届いたもの。黒い楽譜と表紙以外ほとんど同じでしたが、ほんの一回り小さいです。

 著名な作曲家の小林先生が、今回のリサイタルの録音を聴いて下さって、丁寧なお手紙を送って下さいました。各曲について細かい感想を頂いたのですが、矢代さんのソナタについてはこんなことも書いて下さいました。(小林先生は、私の2004年のリサイタルで演奏した素晴らしい作品「ピアノのための三つの断章」を書かれた作曲家です。)

「……矢代さんはとても仲良くして頂いた大先輩です。私が愛知芸大に赴任中に亡くなられ、大ショックでした。……矢代さんのソナタは、もう、なつかしくて、なつかしくて涙が出ました。矢代さんの声もお顔も、物腰も、すべて目に見えてくるのです。…… 」

 このお手紙を読んで私は、「作曲家の遺した≪作品≫というものは、”その人となり”をそのまま映すものであり、まさにその人の肉声なんだ。。。」 という思いを強くしました。

(Y. N.)

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