中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【54】 『赤ちゃんの将来』    2006.10.27

 最近、代理出産が話題になりました。特に国内で、病気で子供を産めない自分の娘さんのために、50代後半のお母さんが出産したというニュースには、驚きました。

 人にはそれぞれ他人には分からない事情や背景があり、簡単に賛成とか反対とか答えられる問題ではないでしょう。医者、娘夫婦、親夫婦、みなの願いを叶えるにはこれしかないと思ったのでしょう。でもやはり私には、どうしても心にひっかかることがあります。越えてはいけない一線のような気がします。

 生まれてきた赤ちゃんには、2人のお母さんが存在します。おなかを痛めて生んでくれたおばあちゃんは「お母さん」で、卵子を提供した遺伝上のお母さんも「お母さん」です。そして本当のお母さん(おばあちゃんじゃない方の)とは、同じおなかから生まれた兄弟姉妹でもある、ということになります。
 自分がもしその立場だったら??? この重い事実が、心にのしかかるような気がします。

 産むまでの過程、家族がどんなに多く議論して、そして選択して生まれたとしても、生まれた赤ちゃんだけはその議論に加わっていない、そのことが強く引っ掛かります。

 今年生まれたその子が、10歳、20歳……と成長していく時に、何を思うのでしょうか……。そして例えば50年先に何を思うか……、まだ誰にも未知数なのです。
(Y. N.)
※これは、10月24日付け朝日新聞「声」欄に掲載されたものの原文です。

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