中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【47】 鹿児島旅行記 第8話 「砂蒸し温泉 その1」
    2006.9.5

 《砂蒸し温泉》とは、海岸に沸いている温泉で砂浜が熱くなるのを利用するもので、体全体をすっぽりと砂の中に埋めてしまい、砂に蒸された状態になるものである。温泉の《湯》の代わりに《砂》なのだ。『指宿』(イブスキ)でそれが体験できるから、鹿児島に行くなら是非、と知人からも勧められた。

指宿スカイライン 指宿スカイラインを通って南下する。途中に数箇所、休憩所や展望台もあったから、寄り道しながら行った。連休だと言うのに人も車も少ない。時々、ツーリングのバイクや車が、休憩している僕をよそ目に見ながら通過していく程度。みんな何処へ行ったのだろうか。
 途中の寄り道でゆっくりし過ぎた事もあって、予定より遅れて午後1時頃、指宿に到着した。

 この『指宿』は何かのんびりした街だ。昔は、観光客で賑わっていたが、今はすたれた街、という印象を拭いきれない。《砂蒸し温泉》目当ての観光客も少ないのか、道端にショッキングピンクの目立つ文字で、『当、指宿○○ホテル、砂蒸し温泉有り』の布製の旗が数10メートルおきに、はためいているのが寂しい。
さて、砂蒸し温泉で最も有名で、どのガイドブックにも掲載されている、《砂蒸し会館 ○○》の前に来た時だ。何十台ものバイク、そして建物の入り口には大勢の人、立っている人も居れば、、階段に腰掛けている人も見える。反対側に目をやれば、道路を占領しているように停車している、車、車、また車……随分向こうに見える最後尾の車は、小さく見える。今回の旅行で鹿児島に来てから、見た事も無い賑わいを見せている。この人達は何処から集まってきたのだろう?(自分もその一人なのだが……) ひょっとしてこの人だかりは、みんな砂蒸し温泉目当て?
 車で建物の前を通り過ぎようとすると、こちらが何も聞いていないのに、「向こうの交差点まで行って、ユーターンして反対側の車の後に着けて下さい」と、今度は緑色の派手な大きな旗を持った係員に誘導された。ここで分かった。この街に来る人は、皆、この《砂蒸し会館 ○○》での砂蒸し温泉が目的なのだ。だからこちらが何も言わないのにすぐに《客》と察し、駐車場への車の列に誘導されたのだ。言われたとおりにユーターンして最後尾に着けた。でも、いったいどの位待つのだろう?傍で車の誘導をしている人に聞いて見た。「駐車場に入るまでが、今のところ50分待ち、その後受付までが、1時間待ちです」

 何と言うことだ! 迷った。せっかく来たのだから絶対にやってみたい。しかし、2時間も待つ気持ちにはどうしてもなれない。一旦、その車列から離れることにした。
 邪魔にならない所に車を止め、手元のガイドブックで他に砂蒸しをやっているところを探した。運良く、一軒目に電話したホテルで出来ることがわかった。待ち時間を聞くと、「すぐ出来ますよ」という返事。有名なところがあれだけ並んでいるのに、こちらは待ち時間なし。少し心配になったが、行ってみることにした。
【第9話へ続く】      (H. N.)

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