中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【43】 鹿児島旅行記 第5話 「霧島で乗馬」
    2006.7.25

 さあ、次はいよいよ乗馬だ。あの乗馬クラブへ急いだ。朝と同じ受付係だった。さっき会ったばかりなのでお互い顔を覚えていた。軽くニッコリ挨拶した後は説明もなく、代金を支払って馬とコーチの待つ方へ向かった。乗馬用ヘルメットをかぶり、あご紐をしっかり締め、
「よろしくお願いしまーす。」
 コーチに馬の経験を聞かれたので、オーストラリアでの体験(第3話参照)を話した。
「ここは日本だから、それほど過激なことはしませんよ」
 と言う言葉に、ほっとしたような、少し物足りないような……。
 僕の馬は、『若葉』という名前だった。車の初心者マークから採ったものらしく、どんな初心者でも乗れる馬、という事らしい。コーチと馬はロープで繋がれていて(この状態が引き馬)、コーチが円の中心に立ち、馬はその周りを回る。これが今回の基本形。
 まず、馬に普通に歩いてもらい、軽くお尻に馬の背中の振動を体験。(これ位はオーストラリアで1時間の体験済み)
「お客様は、だいぶ慣れていらっしゃるようなので、導入はこれ位にして、すぐ次の段階へ行きましょう。」
 ということで即ステップアップ! 今度は、少しだけ速歩き。さっきでも結構お尻に馬の振動が来たからどうなるのかな、と思ったら、
「僕の声に合わせて、アブミにしっかり足をかけて、その場で立ったり座ったりして下さい」
 と言う。
 早速開始。普通歩行から次第に速くなってきた頃、コーチが指示を出した。
「立って、座って、立って、座って、……」
 結構忙しい。そのとおりにやってみると、なるほど、馬の背中が、上に突きあがるときに立ち上がり、次の瞬間、また座る。初めは、脚力が必要だったが、慣れてくるとタイミングよく伸び上がれば良いことが分かってきた。中々面白い。
「今度は少し速くします。今までは、馬の1歩で1回でしたが、今度は、2歩で1回のリズムです。」
essay_43.jpg 速くなる事に多少の不安はあったが、次第にそのリズムに慣れてきた。正に乗馬だ。これで引き馬状態でなければもっと気持ちがいいのに、まぁ仕方ないか。でも十分満足だ。
 そろそろ終わりという頃、思い切って、
「野外騎乗もしたいです!」
 と申し出た。本来、あるコースから他のコースへ繋ぐ事はしないらしい。受付した分だけを体験するのだが、今日は特別に、後で追加料金を支払うという事で馬に跨ったまま『野外騎乗』に移った。そして、今まで居た木の柵に囲まれ整地された土のコースからゆっくりと外へ出た。
 駐車場の側を通った時、反対側の囲いの中に2頭の馬が居た。こちらが囲いから出て行くのを見て、大きく「ヒヒーン」と鳴いた。すぐさま『若葉』も答えるように、長い首を震わせながら更に大きな声で鳴いた。コーチは、
「あちらの馬も外に出たがっている。羨ましいのですよ。」
 ここから先は、コーチが僕に指導する事は何も無い。木々の生い茂った中に入ると軽やかな鶯の声が出迎えてくれた。軽い上りや下りを通りながら、急に砕けた会話になった。
「今日はどちらからいらしたんですか?」
「お一人で旅行ですか?」
「この辺も冬は雪が降るのですよ、積もるほどではないですけどね」 等……。
 気持ちのいい汗も少しだけかいた、楽しい体験だった。
【次回は「ピアノのE先生と」】      (H. N.)

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