中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【42】 鹿児島旅行記 第4話 「えびの高原」
    2006.7.18

 まもなく霧島温泉郷に入った。先程までの街の風景とまるで違う。それまで、あまり高い建物など無かったのだが、ここは6〜8階建て位の立派なホテルや旅館がひしめきあっている。あちこちから湯煙も立ち上っている。
 本当なら此処で温泉に入ってのんびりして、写真でも撮って帰るのだが、それでは午後1時からのあの乗馬には早すぎる。時間もあることだから、もう少し先まで上ってみることにした。

 先には、『えびの高原』がある。霧島温泉郷を抜けてから、どんどん高度を稼いでいく。次第に道路の端から水蒸気が噴出している所が増えてきた。『此処では、立ち止まらないでください。』と看板が出ていた。そういえば数ヶ月前の冬、新潟の温泉の駐車場の窪地で人が倒れ、亡くなる悲しい事故があった。ここも同じように火山性有毒ガスが出ているのだろう。とてもよい被写体なのだが、命を危険にさらしたくないので通過することにした。大自然の脅威を前にすると、人間はちっぽけな存在なのだ。
えびの高原 更に高度を上げていくと急に周りの木々が減ってきて辺りが開けてきた。そしてゴロゴロしたガレキが増えてきた。

 車を止めて降りてみる。辺り一面、硫黄の匂いがする。ガレキにも所々硫黄の成分の黄色い粉が付着している。大木は無く、背の低い木とガレキの世界、時折、車やバイクが通り抜けるだけでとても静かだ。寒くも暑くもなく丁度いい温度。

《よし、ここで昼食だ!》

 今日は、空の下で食べる事も考えて、お握りとお茶を用意してきているのだ。周りには数台、同じように車を止めて、適当な岩に腰掛け、食事をしているグループがあった。早速座りやすい岩を見つけて昼食開始。
 ペットボトルのお茶が渇いた喉を潤し、お握りは空腹を満たし、周りの景色は食欲を増大させる。まさに別天地だ。
不動池
 食後、周りを散策した。道路から数メートル低い所に、水面がコバルトブルーに輝く池を見つけた。地図には、『不動池』と載っていた。山の上の方に行くとよく見かける色の池だ。山上の旨い空気を吸いながら写真を撮ったりしながらのんびりと過ごした。

 再び、温泉街に戻った。来る時にたくさんの温泉を通ってきたが、大きな温泉はあまり好きではない。せっかくだから、ひなびた感じで小さいところが良い。ガイドブックで調べてみた。露天風呂から眺めもよく、少し古そうな宿を見つけた。『○○山荘』である。立ち寄り湯OKだったのでそこへ行くことにした。

 受付は少し新しいが、温泉は本当に小さく古かった。湯は透明だが、湯の花が多いため、白濁して見えた。露天風呂も小さい。山荘眺めは、空が霞んでいるためもあり、うっすらと山並みが望める程度。風呂は日によって男女が入れ替わるようになっていた。露天風呂にも大小があり、訪れたときは、小さいほうが、男湯になっていた。(残念!)

 風呂から上がった後、ロビーでゆっくりくつろいだ。建物の雰囲気や内装の感じから、昭和30年代の建築ではないだろうか。今はもう見かけなくなった、懐かしい大型のステレオが置いてあった。

【次回は「霧島で乗馬」】      (H. N.)

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