中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【32】 『カッコウの入院』    2006.3.3

 オーストリア出身のお気に入りの“カッコウ”が我が家に長年“棲んで”います。時刻と共に鳥が鳴き、扉から鳥が飛び出す木製のカッコウ時計。
'93年に市の海外研修でウィーンに勉強に行った時の記念の品……と言うと聞こえがいいですが、買うきっかけは、腕時計のバッテリー切れでした。

 レッスンを受けていたディヒラー教授のお宅への通り道で、時計屋さんに入りました。入ってみると、間口は狭いけれどそれはそれは奥に細長〜い、「鰻の寝床」のような店だったんです。
 電池交換の場所はそのお店の一番奥。

 「どんどん奥まで歩いてってね」
と言われてたどり着くまでの間に、無数のカッコウ時計が壁でチクタク……チクタク……と時を刻んでいるのに、すっかり目を奪われてしまいました。(今思えば、店の造りがうまくできてましたよね?!)

 電池を替えてもらって、帰りがけにまた見入っていると、“それぞれ作りも声も違うんですよ? 良かったら鳴かせて聞かせてあげましょう。”
と、お店の人。
 なるほど、時計の中には紙で出来たふいごが入っていて、「クックー、クックー」と、それぞれ個性的な声で鳴きます。上部にある木の扉を一瞬開けて飛び出す小鳥も可愛らしくできています。
 その日はいろいろ見せて鳴かせてもらって帰宅。その後買おうか……諦めようか……決断できず、2度ほどお店に通い、帰国前ついに買ってしまった、という想い出の品です。

 大切に手荷物で抱えて帰りました。それから13年……。
毎日けなげに「クックー、クックー」と鳴いて時を知らせてくれる、カワイイ子です。 その“カッコウさん”が、最近とても苦しそうな潰れた声で鳴くようになりました。

「クグー、グゲゲ、ヒェッフ〜、ギュウゴゴ……」

 異国の地でついに病気になったか、と心配になりました。時計に詳しい友人に、腕利きの時計職人さんがいるという東区のH時計店を紹介してもらい、ツレテ行きました。

 “診察”の結果、「機械の油切れですね。幸い、中の部品はちゃんと真鍮で出来ているようですから、大丈夫ですよ。気に入っていらっしゃるんでしたら、こういった機械式の時計はごく微量の油で動いていますから、5年ごとくらいに油を補充して、きちんと手入れしていけば長く使えますよ。」とのこと。

 ホッ……
修理とオーバーホールをお願いし、2〜3週間ほどの「入院」となりました。

 カッコウさん、ごめんね!休ませずに酷使しちゃって……。

(Y. N.)

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