中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【3】 『耳を休める』    2005.6.13

 都会の生活は、どうしてもたくさんの人工的な音に囲まれています。職業柄、とても小さい音や、わずかな音色の変化をよく聴く習慣になってしまっていると、それ故に辛い時があります。他の人が何とも思っていなくても、街中の色々な音を、暴力的に感じることがあるからです。特に苦手なのは電気的な音。例えば、列車で隣に立つ人のウォークマンから漏れるのロックの音、電車のホームのアナウンス、レストランなどのスピーカーのBGMなど……。
 サービスと思って大きな音で音楽を流しているお店などで、「この音、出来たら少し小さめにして頂けませんか?」と、頼むことも大変しばしばです。少し小さくしてもらってホッとする時もありますが、怪訝な顔をされることもあります。そんな時は、食事や買い物も早々に、退散するしかありません。

鏡池 大きな演奏会が終って時間が許せば、気分転換を兼ね、出来るだけ静かなところへ出掛けることにしています。先日、私たちの落ち着ける場所のひとつ、長野県戸隠へ足を伸ばしました。カッコウの住む深い森の奥、お気に入りの静かな宿があります。

 ゆったりと整えられた上質のロッジには、テレビ、ラジオ、ゲーム、パソコンなどなど、人工的な音の出るものは一切置いてありません。実に静かにゆっくりと時間が流れます。聞こえるものといえば、木々の枝葉の音、蛙や春蝉や、とてもたくさんの野鳥の声だけ…。

 部屋には時計もありません。早朝の目覚まし役は、森の鶯たち。
 同じように聞こえるたくさんの鶯のさえずり
   “ホーーホケキョ、ピピピピ、ケキョケッキョ……”
も、よーく聴くと、それぞれ個性があります。ワンフレーズがとっても長い子、まだ練習中の子、ちょっと短く歌う子、途中で急にやめるおっちょこちょいな子など…。きっとみんな性格違うんだろうナ!
 また来ます。耳と心をリセットしに……。

(Y. N.)

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