中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【25】 『ペーター・シュライヤー 最後の公演』    2005.12. 6

 今季限りでソリストとしての引退を表明した名テノール、ペーター・シュライヤーの最後の来日公演を聴いてきました。プログラムはシューベルト“冬の旅”(東京、オペラシティ)
 舞台に姿を現したシュライヤーに,満員の聴衆はとても長い拍手を送りました。会場は既に、一種の静かな興奮に包まれていた感じでした。演奏前に彼がゆっくりと2度3度とお辞儀をしても、なかなか鳴り止まない程の拍手でした。「あぁ、今夜が最後なんだ……」、まだ演奏を聴いていないのに思わず目がウルウルしてしまいました。

 “冬の旅”なので70分間休憩なし。後ろを向いてインターバルを取ったり、途中で水を飲むことも無く、疲れも見せず見事に長丁場を歌いきりました。素晴らしかったです。
 美しい言葉と、いつもながらの艶のある端整な声、迫力もあり、品格の漂う演奏だったと思います。共演ピアノは中堅のアレクサンダー・シュマルツ。ピアニストはかなり現代的な解釈も入れ、若々しい自由な発想で演奏していましたが、シュライヤーの伝統的な風格ある歌唱が、どっしりと全体を引き締めていたように感じました。
 1935年生まれのシュライヤー、今日までこうして維持して歌い続ける為に、心身ともにどんな厳しい節制をしてきたんだろう、と思いました。引退と言う言葉が勿体なく思うほど、どこにも衰えを感じさせませんでした。

 静かなアンコールを1曲歌って、全ての演奏が終わりました。会場の皆の拍手は一層熱いものとなりました。シュライヤーのファン。。。ドイツリートのファン。。。冬の旅のファン。。。彼の長く立派な演奏生活を讃え、感謝をしていました。私は涙が止まらなくなっていました。周りを見ると広い会場の殆どの人がスタンディングオベーション、男女問わず泣いている人も多かったです。
 シュライヤーさん、本当に有り難う、そしてお疲れ様でした!!

(Y. N.)

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