中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【22】 『ローマの市バス」 その2』    2005.10.29

 これは、ローマの市バスについての前回のエッセイの続編である。

■「どのバスが先に発車するかは、運転手次第」

 宿泊したホテルのすぐ側には大きなバスターミナルがあった。そこが終点であり始発でもあるので、いつも必ず座ることができる、という利点があった。
 ある時同じ行き先(系統番号)のバスが、同じ時刻に3台並んで停まっていた。運転手は、詰所付近に集まっていてどのバスにも乗っていない。ターミナルではよく見る光景だ。ガムを噛んだりタバコを吹かしたりしながら雑談している。
 ただ困ったことは、どのバスが先に出発するのかが、全く予測がつかないのだ。マネージャーに聞いてみると、「詰所から出て来た運転手が乗り込んだバスが、先に発車する。」と言うことだった。だから、そのバスを利用しようとしている客は歩道の上でじっと待っていて、運転手がバスに乗り込むと、猛スピードでそのバス目がけて駆け出すのである。ある意味ではとてもわかりやすいが、なんとも滑稽な風景でもある。
 ある時、客が大勢、歩道の上で待っている時、いつものように運転手がバスに乗り込んだ。「あのバスだ!」またいつものように客が一斉にそのバスに走って乗り込んだ。しかし運転手は、すぐ降りてきた。何の事は無い、運転席に置いてあった自分の荷物を取りに戻っただけだったのだ。それを見た客は、自分たちのやっている事が、やはり可笑しいことだと思っているのだろうか、ニヤニヤ笑いながら全員降りたのだった。

バス

■「親切な運転手さんたち」

 バスターミナルに切符の自販機があったので買おうとしたが、あいにく小銭を持っていなかった。近くで休憩中の運転手がタバコを吸っていたので、持っているユーロを手のひらに乗せて見せながら、「これであの機械で買うと、お釣りは出るか?」と聞いてみた。「ダメだよ、ぴったりの小銭じゃないとね。お釣りは出ないんだ。」と言う。(そうかぁ……日本みたいにお釣りが出る機械じゃないんだ。どこかでくずしておくんだったなあ……)なんて思って、とりあえず「ありがとう」と言って立ち去ろうとした。
 するとさっきの運転手、自分の財布をひっくり返してコインをジャラジャラ出し始めた。どうやら僕たちのお金を両替して小さくしてくれようとしているらしい。そのうちに、周りにたむろしていた運転手仲間5、6人もナンダナンダと集まって来た。「おい、おまえ持っていないか?」「オレ、これだけあるが、お前とあいつのを足して……」と、ワイワイガヤガヤ……。それぞれ思い思いに胸ポケットやズボンのポケットまで探してくれ、中には近くの詰所まで自分のポシェットを取りに行ってくれる親切な人まで現れた。何やかや言いながら、円陣になった中央に全員でありったけの小銭を手に乗せて、必死でジャラジャラと数えてくれたのだった。
 結局、「あとちょっと足りないな。残念だ、出来ない。」と、両手を開いて首をすくめた。くずしてほしいと頼んだわけでもないのに。。。こんなにやってくれて感謝!
 イタリア人は実に気のいい人たちなのだ。

【2回シリーズ、完】   (H. N.)

ページの先頭へ