中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【21】 『ローマの市バス」 その1』    2005.10.19

 これは、ローマ市内の市バスについてのエッセイである。旅行者にとっての主な移動手段は、地下鉄、市電、そして市バスである。市電はルートが少ないので、今回の滞在では、もっぱら地下鉄と市バスを利用した。バスの運行については、日本とかなり様子が違っていたので書き綴ってみようと思う。 

■ 始発以外のバス停には時刻表がない
 
 当然、次のバスが何分後に来るのかは誰も知らない。しかし当たり前だが、必ずバスは来る。だが、自分が乗るべきバスが近づいてきたとしても油断してはいけない。運転手に向かって大きく手を挙げるなどして、自分が乗る事をはっきりとアピールしなければ、バスは停留所に止まらずに通過していってしまう。1つのバス停には、色々な行き先のバスが来るから、運転手は、たとえバス停に数人の客がいても、誰も手を上げていなければ、「自分のバスには乗らないんだ」と判断し、通過する(習慣になっているらしい)。一度乗り損ねると、今度は、いつ来るか分からないバスを辛抱強くじっと待たなければいけない羽目になる。
バス
 一度こんなことがあった。バスに乗り損ねて、今通過したバスの後姿を眺めながら、バス停から少し離れた石段に腰掛けて、「次のバスを待つことにするか…」と腹をくくった途端、信じられない光景を目にしたのだ。たった今、乗り損ねたバスと同じ系統番号のバスが、ものの30秒も経たないうちに続けて来たのだ。慌ててバス停まで戻っても後の祭り、徐行することも無く、”ブーン”とすごいスピードでバスは通過して行った。仕方が無いので、再び待つことになってしまった。頭に過ぎるのはただ一つ…次のバスは、いつ来るのだろう…。

■ 交差点でバスがバスを追い越す

 市バスが時刻表の無い運行をしているので、こんな珍しい(現地では普通の)体験をした事もあった。赤信号で、少し前を走っていた、自分が乗っているのと同じ系統番号のバスに追いついてしまったのである。(厳しく時間調整している日本では、絶対にありえないだろう。)それも、前に止まっているバスの後につけばいいのに、真横に並んだりする。そして、窓を開けて運転手同士が大声で話をしている。手の動きも加わり結構夢中に話しているのである。
 信号が青に変わった時だった。我々の乗っていた後から追いついたバスが、先に発車したのだ。そう言えば、さっきの手の動きは、「お先にどうぞ!」というようにも見えなくもなかった。

【続く】   (H. N.)

ページの先頭へ