中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【13】 『クリームたっぷり』    2005.8.24

 ウィーンに旅行した友人から、お土産を戴きました。ハプスブルグ家御用達の名物菓子、と言えば、そう、あの「ザッハートルテ」です。こってりした濃厚な味わい、甘くてチョコレートの香りたっぷりのケーキです。

 ザッハートルテの意味は、ザッハー家のトルテ(お菓子)。文字通り、ウィーンの老舗ホテル、『ホテル・ザッハー』の菓子職人、フランツ・ザッハーさんが1832年に創作して人気沸騰となったケーキです。その後、レシピが流出して商標をめぐる裁判沙汰にまでなった、という逸話つきなんです。果たしてその判決は……「ザッハートルテの名を他の店でも名乗って売ってよい!」というものでした。

 現在では、ウィーンの街中に溢れる程あるケーキ屋さんに「ザッハートルテ」と言う名前で必ず並んでいます。今回私が戴いたのは、[ホテルザッハーの木箱入りザッハートルテ]、解りやすく言えば「元祖!」ザッハートルテでした。アァ、贅沢……。
 余談ですが、同じドイツ語でも、ドイツとオーストリアでは発音が微妙に異なります。このお菓子の名前も始まりの「ザ」をあまり濁らせず「サ」のように、そして「ル」を曖昧に発音し、「サッハートアテ」のような発音にすれば、ちょっとカッコいいウィーン訛りとなります(笑)。
 さて、その作り方は…

 小麦粉、バター、砂糖、チョコレート等で作った生地を焼いてチョコレート味のスポンジケーキをつくり(ここ迄で既に甘い!)、その上に砂糖をたっぷり含んだアンズのジャムを塗り(もう十分に甘い!)、最後に表面全体をチョコレートでしっかりコーティング!(どの位の甘さになっているかは御想像にお任せします)。食べる時にはその上に必ず、ホイップした生クリームを添えます。
 ここまで来ると、『甘さの限界を超えている程、物凄く甘〜い』と思いがちですが、実は生クリームにちょっとした秘密が隠されているのです。なんとこのホイップクリームには砂糖は使用していないのです。私の独断では、この甘さ(日本人だと、もしかして叫びたくなる程の甘さ)を、『甘くないホイップクリームが覆ってくれる→甘さが緩和され、美味しくなる』のだと思います。

 ウィーンに滞在した時に、微笑ましい光景を目にした事がありました。ケーキ屋さんで、ウィーン人らしき品のいい高齢の紳士がザッハートルテを注文、運んで来たウェイトレスさんに、「生クリームをもっとたくさんにして貰えるかね?」と熱心に頼んでいるのでした。
 やっぱりクリームは多い方が美味しいですもんね?!

(Y. N.)

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