中岡秀彦/中岡祐子 エッセイ集

【11】 『サンティ…世代を超えて』    2005.8.10

 名指揮者ネルロ・サンティを聴きました。彼の選曲によりオールイタリアもの。まずロッシーニのオペラ「セミラーミデ」、「泥棒かささぎ」、「ウィリアム・テル」の3つの序曲、そして、レスピーギの交響詩「ローマの噴水」、「ローマの松」、「ローマの祭」という素敵なプログラムです。
 オケはPMF(パシフィックミュージックフェスティバル)、世界各地からオーディションで選抜された18〜29歳の若手音楽家で編成されています。

 1931年生まれのサンティは、想いのほか巨漢、ゆっくり淡々とステージに登場するだけで会場からは拍手と共にどよめきが起こりました。既に巨匠のオーラが漂っているようでした。

 特に楽しみにしていた後半のレスピーギ、大編成でした。弦楽器群だけでおよそ70名、そこに木管、金管、打楽器群、総勢100名を軽く超える大所帯です。大変若い団員達はややばらつく場面もありましたが、サンティの棒によって壮大なスペクタクルが構築されました。
 生で聴くローマ三部作は大変感動的でした。さすがに音の厚みと凄みと色彩感が豊富です。シンフォニックポエムの響きのあちらこちらには様々な他の作曲家の色彩も垣間見たような気がして、それも聴く楽しみを倍増しました。リムスキーコルサコフのシェエラザード、ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲、ストラヴィンスキーのぺトルーシュカ、ラヴェルのボレロ、ムソルグスキーの展覧会の絵 etc.
 そう言えばサンティは少し前の紙面“ひと”欄に登場し、“聴衆を、イタリア旅行に行った気分にさせて見せます。”と語っていました。

 先人フルトヴェングラーやトスカニーニの流れを受け継ぐと言われるその指揮ぶりは、無駄がなくシンプルそのもの、どんな場面でも音楽の芯が全くぶれません。今の時代からすると貴重にも思える、オーソドックスでクラシカルなスタイルを貫いていると感じました。その上プログラム全て暗譜…しかし暗譜だからすごいというような次元の問題ではなく、そんなことを超越していました。ロッシーニやレスピーギそのものがサンティの血や肉となっていて、体の奥からごく自然に溢れ出て来る…そんな印象の演奏でした。

 世界のトップで活躍し続けて来たサンティと、これから伸びていく若い人達、そこには殆んど半世紀の歳の差があります。私には滅多に体験できない、巨匠から次世代の若者への”文化伝承の瞬間”に同席できた様に思い、聴きながら時折心が熱くなりました。
 ホルショフスキーや チェルカスキーのように、サンティには90,100才までも長寿で活躍してほしい…と願って、暖かい気持ちで家路につきました。

(Y. N.)

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