Concert Review

2009年8月9日 リスト音楽院の仲間たち
於:宗次ホール

  【日本経済新聞 2009年8月27日付「クラシック」欄所載】
「ホールに合った心地よい響き」
音響効果のすぐれたホールでは、強弱や音色などの表現が奏法によって多様に変化し、時には異質な音楽となってしまう。「リスト器楽院の仲間たち」コンサートは、宗次ホール ( 名古屋市中区)の空間にふさわしい響きを奏でながら好演奏を披露した。同音楽院はリストがハンガリーにもどり初代総長に就任したのを機に王立音楽院から改称され、その後、コダーイやバルトークなどすぐれた音楽家を輩出している。
今回のコンサートは、同音楽院で教鞭をとり、国際的にも活躍するバイオリニストのサバディ・ヴィルモシュを迎え、地元愛知出身で同音楽院で学んだ新進のピアニスト原田綾子との共演である。クライスラーの「美しきロスマリン」や、当地では演奏される機会の稀なヴェチェイ「悲しみのワルツ」などしゃれた小品からの演奏。このホール空間の響きを巧みに生かした繊細でのびやかな旋律を奏でるサバディとともに潤いのある音色感の原田のピアノも好ましい。バルトークの「アンダンテ」では叙情性を生かし、フランクの「バイオリンとピアノのためのソナタ」では、構成も巧みに各楽章を対照化させながらロマンの薫りのある表現呈示した。終曲のラヴェルの「ツィガーヌ」は、オクタープや重音などの高度な技法のバイオリンのカデンツァが続き、ツィガーヌ(ジプシー)の民族楽器であるツィンバロン特有のイメージを生かした原田の情感のあるピアノも聴かせた。
サバディのバイオリンとともに、ふくよかなタッチで共演じた原田のピアノも将来が楽しみである。小品を中心にして練られた選曲で心地よい響きを奏でたコンサートであった。
  【中部経済界 2009年11月号所載】
ヴィルモシュはハンガリーのリスト音楽院で教鞭を執っている。共演したピアノの原田綾子は愛知県芸大学院修了後に同音楽院で学んだ。
プログラムは、前半にいくつかの小品、後半にフランク「ソナタ」とラヴェル「ツィガーヌ」を配した「ランチタイム名曲コンサート」に相応しい構成である。
まずクライスラー二曲でさらりと客席をリラックスさせた後、ヴェチェイ「悲しみのワルツ」、バルトーク「アンダンテ」と耳馴染みは薄いが口当たりのいい曲を楽しく聴かせた。特にバルトークは作曲家の別の側面を見せられた感じで興味深かった。
後半は、さすがに堅実なテクニックと手堅い解釈でまとめ上げ、聴き応えがあった。
ピアノの原田は、どちらかと言えばコントロールの難しい音響空間の中で、大変柔軟な対応振りを示し、アンサンブル奏者としても並々ならぬ能力を持つことを印象付けた。