Concert Review

2008年11月22日 リサイタル
於:電気文化会館ザ・コンサートホール


  【中部経済界 2009年1月号所載】
原田は愛知県立芸術大学大学院修了後ハンガリーのリスト音楽院で学んだ。近年は室内楽的活動が目立つようだったが、三年ぶりに催されたソロ・リサイタルは、まずもって何よりもその「美しい音」に心惹かれた。独特の音響空間を持つこの会場で、このように美しいピアノの音を聴けるのは喜ばしい。
一般に未熟な演奏者は、ステージ・リハーサルを自分の「テクニックのお復習い」のみに充て、それが「ホールの音響特性を把握して(ピアニストには与えられた楽器のそれも含めて)、如何に演奏すれば自分の思い通りの響きが聴き手に伝わるかを確認する」という重要な要素を持つことを忘れがちだ。優れた演奏家はまず「自分の音」を持ち、演奏の場に臨めば常にその補正を(殊更そうすることを意識するか否かは問わず)的確に行っている。そのような観点から見ると、原田は充分後者に属すると言えよう。
それはさておき、今回は「実りの秋のファンタジー」と題してモーツァルト「幻想曲」K.397、ベートーヴェン「月光ソナタ」、ショパン「マズルカ作品42」「バラード第1番」、シューマン「謝肉祭」で構成し、プログラムにストーリーを持たせたようだ。
やや固さの見られたモーツァルトに続くベートーヴェンでは、第一楽章でリラックス出来たのか鮮やか(過ぎる)な終楽章にいささか呆気にとられた。ショパンの「バラード」でも共通したが、それは同時にテクニックを物語ることにもなろうか。ともあれ尻上がりに好調さを見せて、最後のシューマンは自身にも満足すべき出来であったろう。
ところで少し憎まれ口を叩いておくが、今回は言ってみれば「誰でも弾く」作品で占められていた。自主リサイタルは当然自己主張=個性の発揮の場であることを思うと、「発展途上」に在る者に許される冒険をも含めて「ならでは」のレパートリーを望みたくもなる。充分にそれに応える実力を備えていると思うので、次回にはそれを期待したい。