Concert Review

2005年9月9日 リサイタル 於:電気文化会館ザ・コンサートホール

 【音楽の友 2005年11月号所載】
 原田綾子は、愛知県立芸術大学大学院修了を経て、2年間ハンガリー国立リスト音楽院で学び、イタリア、フランス、ハンガリーでリサイタル活動を開始、今回の帰国コンサートとなった。国外での研鎮の成果を中心としたフログラムは、バルトークの《ルーマニア民俗舞曲》「組曲作品14」からである。
 バーカッシヴな効果が十分で、時には刺激的に響いたが、それが静的部分との対比要素として十二分に際だった点、組曲全体のダイナミックレンジの広さが活かされた点で成功していた。リストの「バラード第2番」では各部分の意味内容を、響きのあり方とともによく吟味しながら、弾き進めていた。精妙さが感じ取れる演奏である。
 モーツァルト作曲《デユポールのメヌエットによる9つの変奏曲ニ長調》はピアノでの柔らかい質を追求し、リスト《ペトラルカのソネット47番、104番》のフレージンクの余裕、《スペイン狂詩曲》の支える力の強さが、存在感のある演奏に結実した。幅広い表現力を供える特質が、さらに活かされるよう、今後の演奏活動に期待したい。

  【中部経済界 2005年11月号所載】
 愛知県立芸術大学大学院を修了して、ハンガリーに留学していた原田が、リスト音楽院での研鑽を終えて帰国、その成果を示すリサイタルを開いた。
 彼女を初めて聴いたのは、まだ高校(菊里高校音楽課程)在学中に仲間を語らってピアノ・トリオを結成し、バルトーク弦楽四重奏団の公開レッスンを受講したときのことだった。その際立った音楽性は、講師陣(取り分け自らもピアノ・トリオを持つ第二ヴァイオリンのハルギタイ氏)から絶賛されたが、またその積極性は前途への希望を大きく抱かせたのであった。そしてこの二年間は、彼地で実に意欲的に研鑽を積んだようだ。
 さて、この日のプログラム構成は原田自身によるもので、バルトークとリストを二本の柱に、間にモーツァルトを挟むという、如何にも思い入れ深いものだ。コンサートは、意表をついてバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」で始まり、同「組曲」と続いた。冒頭は気負いからかやや弾き急いだ感があったがすぐに律動的な流れを引き寄せた。これらの選曲は聴衆の固さをもほぐす効果が顕著だったので、第三曲のリスト「バラード第二番」には、双方が余裕を持って臨むことが出来、このドラマティックな作品を快い緊張感の中で味わうことが出来た。
 後半第一曲は、これも意外な感じのするモーツァルト「デュポールのメヌエットによる九つの変奏曲」。休憩時に充分リラックスできたのか、ここで無類に美しいモーツァルトを聴かせた。それはまた、よく考えられた、作品の成立年代を逆行するプログラミングが成功したことを物語るものでもあったろう。以後の、深い詩情に包まれたリストの二つの「ペトラルカのソネット」、最後の華麗な同「スペイン狂詩曲」は、いずれも彼女の迸る若さに彩られながら、爽やかな余韻を与えてくれた。
 云うまでもなくプログラム・ノートも自ら書いていたが、こういう自己主張のはっきりしたコンサートは文句なく快いもの。「発展途上」をしっかり印象づけられたあとは、今後の本人の精進と周囲の環境のもたらす「熟成」を待ちたい。しばらくはじっくり見守りたいアーティストの一人だ。

  【音楽現代 2005年11月号所載】
 ロンドン国際音楽コンクールディプロマ賞。バルトーク国際音楽コンクール入賞。リスト・バルトーク国際音楽コンクール入賞。ヴァレンティノ国際音楽コンクール第1位ヴァレンティノ大賞受賞の原田綾子がリスト音楽院留学を終えて帰国リサイタルを開いた。
 バルトーク/ルーマニア民俗舞曲、組曲作品14ではパワーと繊細さなど陰影が明白で土臭さを感じさせ、曲毎の対比も鮮やかで、知的な演奏を披露した。
 リスト/バラード第2番ではメロディが鮮やかで悲劇的音楽を見事に描いて好演した。
 モーツァルト/デュポール変奏曲はさわやかな世界を描き、プログラミングの好対比を聴かせ、最後のリスト/巡礼の年第2年ペトラルカのソネット、スペイン狂詩曲ではリストの華麗さをあまつ処なく描ききった演奏で感性、テクニックはもとより、テンポの揺れや盛り上がり、修まりなど流れの自然さや、耳の良さなど素晴らしい逸材だ。
 注目にあたいする大型新人デビューで今後に期待したい。

〈ページのトップへ〉