ルンデ開館満20年記念例会シリーズ小山実稚恵 ピアノ・リサイタル
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小山実稚恵(こやま・みちえ) バッハ・シリーズ その3 | ||||
『平均律クラヴィーア曲集 第2巻』 演奏者による新配列曲順 |
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第1部は、バッハの色々な試みを正々堂々と表現できればと考えて構成しました。
第2部は、声楽的な響きを感じる作品を中心に、とにかく心が透き通るような雰囲気の作品を並べるように心掛けました。第1部と第3部になるべく躍動的なものや舞曲的な性格のもの、そして力の充実した作品を集めたので、それと第2部の性格の違いの対比をどう表現していくかが最も大きい課題だと思っています。 第3部では、ソナタの原形を感じさせるような未来に向けて放たれている光と、音楽で表現されている陰を意識して並べてみたつもりです。受難曲や詩篇との関係など、楽譜の後ろに込められたメッセージを感じながら演奏したいと願っております。 小山実稚恵 |
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プログラム・ノート 小山実稚恵 |
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●平均律全曲を演奏するにあたって……
フリーデマンのための11曲のプレリュードを出発点とし、そこから完成に至った第1巻は構造的に非常にまとまった曲集であり、その中に考え抜かれたシンメトリーの概念が見てとれます。第1巻と比べて成立過程において異なる第2巻では構造的なまとまりは見えず、個々において成熟度の増したより自由で思索的な曲が増え、そこから新しい可能性の追求を随所に見ることができます。 演奏にあたって、第1巻ではバッハが意図していたシンメトリーの概念を頭に入れ最初の12曲と後の12曲の対の形をなるべく残しながら、コントラストを意識して並べました。そして今回第2巻では、24曲を3部に分けて並ベることにしました。 第2巻のプレリュードは第1巻に比べて舞曲様式を踏襲した2部形式のものが多く、中には古典派ソナタの原形を感じさせるような作品もあり、エチュード的な曲を多く取り入れていた第1巻よりも演奏の楽しみを与えてくれる曲が多いように感じられます。そういう意味でプレリュードがフーガと対等の位置を占めるようになったといえるでしよう。またフーガにも様式の幅がみられ、古様式(パレストリーナの様式)を使ったものが第1巻より増えています。それから第22番のように楽譜の裏に隠されたバッハの意図の見えてくる曲の存在も第2巻の特徴といえると思います。第22番では、第1巻・第2巻共に同じリズムの音型が用いられており、またゼクェンツで上行していく所も同じなのですが、この変ロ短調は「マタイ受難曲」でイエスが泣く場面と同じ調です。そして22という数字ですが、その場面でイエスが言う言葉が聖書の詩篇22番に出てくるのです。その詩篇における言葉と音との関係等、楽譜の裏に込められたバッハのメッセージを感じるとることがとても大切だと思っています。 ●今回、3部構成にした大きな流れとして…… 第1部は、バッハのいろいろな試みを正々堂々と表現してみたいと考えて並べてみました。幕開けに相応しい第1番から始まり最後の10番で幕を閉じるのですが、第10番の劇的で強力なフーガの3連音符と16分音符の織り成す緊張感、そして最後 adagio からのフレーズをどう弾くかによって第1部のドラマの結末が決まってしまうと考えています。 第2部は、声楽的な響きを感じる作品を中心に、とにかく心が透き通るような雰囲気の作品を並べるように心掛けました。第1部と第3部になるべく躍動的なものや舞曲的な性格のものそして力の充実した作品を集めたので、それと第2部の性格の違いの対比をどう表現していくかが最も大きい課題だと思っています。第2部の最後から2曲めの第23番と詩篇第23番との関係、そして最後に演奏する第8番。ここでは結末部でソプラノ声部とテノール声部が完全な鏡像形となっている事から、第1部と第3部をそこで映し出す第2部の役割、そしての位置付けの意味合いを含めて配列しました。 第3部ではソナタの原形を感じさせるような未来に向けて放たれている光と、音楽で表現されている陰を意識して並べてみたつもりです。最初に演奏する第16番の「ヨハネ受難曲」との関係、そしてこの曲集の最大のクライマックスである第22番のあとに、第14番でさりげなくこの曲集に「さようなら」を告げてお別れしたいと思っています。 |
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小山実稚恵 プロフィール |
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第7回チャイコフスキー国際コンクール第3位。第11回ショパン国際ピアノ・コンクール第4位。1986年第12回ショパン協会賞を受賞し、チェコの「ショパン・フェスティヴァル」に招待される。90年モスクワ音楽院大ホールにてリサイタル。91年ロイヤル・フェスティヴァルホールでのロイヤル・フィルとの協演でロンドン・デビュー。94年にはモスクワで「第10回チャイコフスキー国際コンクール」の審査員をつとめる。同年「飛騨古川音楽奨励賞」受賞。
オーケストラとの協演も意欲的に取り組み、古典から近・現代に至る40曲以上の幅広いレパートリーを持つ。日本のオーケストラの海外ツアーにソリストとして同行することもしばしばで、1998年11月にはシャルル・デュトワ指揮のNHK交響楽団との中国公演を行った。 海外オーケストラとの協演も多く、これまでに、ロイヤル・フィル、BBC響、セント・マーティン・アカデミー管弦楽団、イギリス室内管弦楽団、ロッテルダム・フィル、ベルリン響、モントリオール響、モスクワ放響、ロシア・ナショナル響、ワルシャワ・フィル等が挙げられる。 室内楽の分野でも、マリア=ジョアン・ピリスとの連弾ピアノ、ヴァイオリンのオーギュスタン・デュメイとのデュオ等、積極的に取り組んでいる。 レコーディングに関しては、ソニー・ミュージック・エンタテイメントと専属契約を結び、これまでに15枚のディスクをリリース。最新盤は、1998年10月の「ベルク、リストのソナタ他」。 |
昨秋スタートした J. S. バッハ没後250年に因むルンデの会例会特別企画『小山実稚恵 バッハ・シリーズ 全四回』は第3回を迎えました。
「チャイコフスキー、ショパン両国際コンクールに上位入賞した日本のピアニスト」として楽壇の脚光を浴び、以後着々と自分の世界を築きあげて来た彼女が、長年暖めてきた構想をいよいよ実行に移した、テーマをバッハに絞った今回のリサイタル・シリーズは、ピアニストとしての彼女の音楽活動の中でも、新たな境地を開拓する極めて重要な意味を持つ企画です。「じっくり聴いて欲しい」という本人の希望に対して、こちらもじっくり受け止めたい期待のシリーズです。 ルンデ初登場だった「バッハ名曲集」のシリーズ第1回(昨年10月)、そして第2回今春の「平均律第1巻」は、いずれも期待に違わぬ素晴らしいものでした。 そして、特に「平均律第1巻」では、一般の慣行を破って、彼女自身の発想による曲順の再編成を行い、この偉大な作品に新しい光を当て、聴衆の絶大な支持を得ることに成功しました。 今回の「第2巻」においても、同様の発想に基づく「新たなる平均律」を聴かせてくれるでしょう。この長大な作品を通演するため、途中3回の休憩をとり、コンサート全体に要する時間は3時間に近くなると予想されます。「バッハ・イヤー」を飾るに相応しいこのコンサートを絶対にお聴き逃がしなく! 全シリーズ・スケジュールは、. 第1回:1999年10月24日(日)15時 『バッハ・プログラム』 第2回:2000年 4月 9日(日)15時 『平均律第一巻 全曲』 第3回:2000年10月 8日(日)15時 『平均律第二巻 全曲』 第4回:2001年 4月15日(日)15時 『ゴールドベルク変奏曲』 |
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